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第 42話
黄金のつぼ
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むかしむかし、梅が枝(うめがえ)という女の人がいて、平家の武士の梶原景季(かじはらのかげすえ)と一緒に、旅をしていました。
途中で路銀(ろぎん→旅費)が少なくなって宿賃も払えず、ほとほと困り果ててしまいました。
そのとき梅が枝は、ふと、釣り鐘のたましいをなぐさめて、お金持ちになった人たちの話を思い出しました。
それは、こんな話しです。
あるお寺に、それはそれは響きのよい鐘がありました。
どうしたことか、その鐘が沼の底に沈んでしまったのです。
それで、村の人たちは、
(もう、あの鐘の音を聞くことが出来んのか)
と、悲しんでいました。
そして、
(沈んだ鐘も、さぞ無念だろう)
と、鐘のかわりになるものを打ち壊して、その音を沈んだ鐘に聞かせては、なぐさめていたのです。
こうしたやさしい心が沼の鐘に通じて、貧しかった村の人たちは、それからお金持ちになったというのです。
梅が枝は、この話しを思い出して、
(何か鐘のかわりに、打ち壊す物はないかしら?)
と、しばらく考えていましたが、
「ああ、そうそう」
つぶやいて立ちあがると、しょうじを開けて縁側に出ました。
そしてすたすたと歩いていって、かわや(→トイレ)の側にあった手水(ちょうず→手洗い)ばちをとりあげたのです。
とりあげると、その手水ばちを、
チンカンチンカン
と、たたきつづけて、大きな声で、
「黄金、三両くださいまし!」
と、叫ぶと、下の石に打ちつけて、
ガシャーン!
と、たたき割ってしまいました。
その音を聞いて、同じ宿に泊まっていた一人の客が出てきました。
「もし。さっきから、手水ばちをしきりにたたいておられたが、にわかに大声を出して、割ってしまわれるとは、何かわけでもございますか?」
そこで梅が枝は、路銀に困っていることを打ち明けました。
すると客は、思いつめた願いに心を動かされて、
「なるほど、さようなことでござりましたか」
と、願い通りの三両を、梅が枝にくれたのです。
さて、この話しが広まって、
「梅が枝さんに、あやかりたい」
と、あちこちで梅が枝のうわさが持ちきりです。
ところで大井川(おおいがわ)のそばに、一人の百姓がいました。
百姓といっても、この男は田も畑も作りません。
毎日、ぶらぶらと遊び歩いてばかりいました。
そのため、いまでは田も畑も売って、すっからんです。
「ああ、金がほしい」
と、毎晩、つぶやいていましたが、ちょうどそのころ、梅が枝のうわさを聞いたのです。
「こりゃあ、いいことを聞いたぞ」
男はさっそく、ねんどをこねて手水ばちを作ると、
「ほしいわ、ほしいわ。黄金三両」
と、何度も何度もわめいたあげく、そのねんどのはちを、石にぶつけてたたき割ったのです。
すると、はちがくだけちった地面から、スーと、まっ白な着物を着た女の神さまが現れたのです。
その両手には、ふたをしたつぼを大事そうに持っています。
女の神さまは、にっこりわらうと、すずをふるような声で男に言いました。
「あなたの願いが、あんまり一生懸命なので、わたくしもだまっているわけにはまいりませぬ。それで、せめてこの黄金なりとさしあげたく、ここに持参いたしました。では、どうぞ」
ふたをしたつぼを男に手渡すと、女の神さまは安心したように、地面の中へ消えていったのです。
「うむ、これは、なかなかの物だ」
男は、ずっしりと重いつばを持って、
「女房、喜べ。黄金のつばが手にはいったぞ」
男は大きな声でよびながら、つばをしっかり持って家の中へはいってきました。
すると女房が、台所からとんできて、
「しーっ。声が大きいよ」
だれにも聞かれないようにと、手まねをします。
(うん、うん)
と、男はうなずいて、女房の前に大事なつばを差し出しました。
にっこり笑った女房が、つぼのふたをとって見ると、中には黄金色のうんちが、つぼいっぱいに入っていたということです。
おしまい
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