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第 55話
泡原(あわら)の長者
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むかしむかし、香住谷(かすみだに)の泡原(あわら)というところに、『泡原の長者』と呼ばれる、けちで有名な男が住んでいました。
こんな男にも一人のかわいい娘がいて、名を『あやめ』といいます。
親とは似ても似つかない、気立てのよい、とても心のやさしい娘でした。
さて、あやめも年頃になり、そろそろ婿をとることになりました。
話しはいろいろありましたが、長者が目をつけたのは村の旧家、北村七郎(きたむらひちろう)の次男です。
旧家とはいえ、七郎の家はすいぶん貧しかったので、この縁談はさっそくまとまりました。
そしてあのけちな長者からはとても考えられないようなたくさんの金が、結納(ゆいのう)として送られてきたのです。
七郎の家では、
「こんなたくさんの結納をもらっても、それにつり合うような身仕度はしてやれない」
と、困っていました。
ところが長者は、
「なあに、仕度なんぞ、何もいらんよ。ただ、身体と扇子にいっぱいの土を持ってきてくれたらええ」
と、いうのです。
この返事に七郎の家では、
「何だか、おかしいぞ」
と、思いながらも、やがて二人の祝言が上げられました。
さて、あやめと七郎の次男は仲良く暮らしていましたが、そのうちに長者の婿いびりが始まりました。
最初のうちは、あやめのためと辛抱していた七郎の次男も、ある日とうとうがまんできなくなって、実家に逃げて帰ったのです。
ところが長者は、待ってましたといわんばかりに、
「扇子にいっぱいの土とは、扇子を広げて見て、その中に入る土地の事。七郎の家も田畑も、みんなわしのもんじゃ。あはははははっ」
と、勝手な事を言い出したのです。
七郎の家は、さっそく役所へ訴え出ましたが、役人はすでに長者に多くのお金をもらっていたので、なんと長者の言い分が認められたのでした。
そんなわけで、七郎の家はつぶれてしまいました。
けれど、こんなひどい父親の姿を見て、心やさしいあやめは苦しみました。
そして苦しんだ末に、あやめはある夜、近くの池に身を投げてしまったのです。
これを知った七郎の次男も、かわいそうなあやめのあとを追いました。
これにはさすがの長者も、ようやく自分が罪深い事をしたことに気づいたのです。
そして今までの罪滅ぼしのために、諸国巡拝の旅に出て、二度と帰ってこなかったそうです。
おしまい
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