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第 60話
一枚のうろこ
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むかしむかし、ある村に、大変美しく、とても心のやさしい娘が住んでいました。
ある夜の事、娘が寝ようとすると、誰かが家の戸をたたきます。
「こんな夜ふけに、誰かしら?」
娘が戸を開けようと立ちあがると、いつのまにか男の人が部屋のすみに座っていました。
上等なはおりはかまをつけた、若い美男子です。
「あの、どなたさまでしょうか?」
娘がたずねても男は何も答えず、ただじっと娘を見つめるだけです。
仕方がないので、娘は縫いものをしながら朝が来るのを待ちました。
夜明けになると男はそっと戸を開けて、まるで朝の光にとけるように姿を消してしまいました。
次の夜も、その次の夜も、毎晩、男はやって来るようになりました。
けれど、あいかわらず男は何をたずねても答えず、娘を見つめ続けて、夜明けになるとどこかへ消えるように帰って行きました。
さすがに娘も気持ち悪くなってきて、あるとき、何でもよく知っている隣の家のおかみさんに相談しました。
「それなら、麻糸を七日間つむぎなさい。そしてつむぎ終わったら、かぼちゃに巻いて、糸の先に鈴をつけておくのです。それから男の人が来たら、はかまのすそに針をそっとつけなさい」
娘は教えられた通りに七日間麻糸をつむぎ、かぼちゃに巻いて針をつけておきました。
七日目の晩、娘はわからないように、男のはかまのすそに糸をつけた針をさしておきました。
そして、夜明け。
男が帰ると、娘は夜が明けきるのを待って外に出ました。
はかまの先についた糸が、山の方へ続いています。
「この糸をたどっていけば、あの人の正体がわかるわ」
娘は糸をたどって、歩き出しました。
糸は山をこえ、野をこえて、どこまでも続いています。
どんどん歩いていき、姥岳(うばたけ)のふもとまでたどりつきました。
「あ、あそこに」
岩屋の中に糸が続いていて、中から『うー、うー』と苦しそうな声がしています。
娘はゆっくり中をのぞいてみると、
「あっ!」
なんと岩屋の中では、大きな蛇が針をのどにさして、苦しがっているのです。
娘は驚いて、逃げようとしました。
すると蛇が大きな体を苦しさでうねらせながら、娘に言いました。
「今まで気味の悪い思いをさせて、申しわけありませんでした。実は私は、姥岳の大蛇なのです。あなたに三つのたまごをお渡しします。どうか百日間水につけて、百日たったらたまごを割ってください。お願いします」
娘は大蛇から三つのたまごをもらうと、急いで家に帰りました。
そして言われた通りに、家の前の川の水にたまごをつけておきました。
娘は百日目を待ちました。
このたまごが、一体どんなたまごなのかわかりません。
怖かったのですが、でも娘は、自分の針で死んでいった大蛇が気の毒で、おわびにたまごをかえそうと思ったのです。
ついに、百日目の朝が来ました。
娘は三つのたまごを水からあげて、そっとわってみました。
するとたまごの一つずつから、人間の赤ちゃんが出て来たのです。
三人の赤ちゃんは、男の子です。
でも三人の体には一枚ずつ、蛇のうろこがついていました。
実は、娘が一日数え間違えて、九十九日目でたまごをわってしまったのです。
それでも三人の男の子はすくすくと大きく育ち、やがてうろこもとれました。
三人の子の母親になった娘は、そのうろこを大切にしまっておき、家宝にしました。
三人の子は、それぞれ高千穂太郎(たかちほたろう)、別府次郎(べっぷじろう)、佐伯三郎(さえきさぶろう)と名づけられ、大人になると出世して、国のためによく働いたそうです。
おしまい
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