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第 279話
タンスの中の田んぼ
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むかしむかし、炭焼きを仕事にしている二人の若者が炭焼き小屋へ行ったのですが、どこでどう道を間違えたのかいつまでたっても炭焼き小屋へたどり着けませんでした。
「困ったな。炭焼き小屋へ行くどころか、帰る道もわからんぞ」
「おかしい、いつも通っている道なのに」
道に迷った二人が困っていると、すぐ向こうに一軒の家がある事に気づきました。
「助かった。家があるぞ」
こんな山奥に家が一軒だけあるのはおかしいのですが、二人は大喜びでその家に駆け寄ると家の戸を叩きました。
「すみません。
おれたちは山で炭焼きをしている者ですが、道に迷って困っています。
どうか一晩、泊めてもらえないだろうか?」
すると家の中から美しい娘が出て、にっこり笑って言いました。
「それは、お困りでしょう。
ここには食べる物はお餅しかありませんが、それでもよかったら泊まってください」
「いや、助かります」
「お世話になります」
二人は家に入れてもらうと、山の様に出されたお餅をごちそうになりました。
二人が満足そうにお腹をさすっていると、娘が言いました。
「あの、わたしは用事があって、これから出かけなければなりません。
すみませんが、お二人で留守番をして頂けませんか?
わたしが留守の間、たいくつでしたら家の中の何を見てもかまいませんが、このタンスの引出しだけは決して開けないで下さいね」
「ああ、わかった。タンスは開けないよ」
「気をつけて、行っておいで」
「はい。ではお頼みします」
娘は支度をすると、すぐに出て行きました。
残った二人はおとなしく留守番をしていたのですが、やがて一人が言いました。
「あのタンスだけど、何か気にならんか?」
「ああ、確かに。・・・だが、決して開けるなと言っていたからな」
「それはそうだが、だからそこ、よけいに気になるのじゃ」
「しかし、娘と約束したし」
「それはそうだが、ただ見るだけだ。なあ、ちょっとだけ、見てみようぜ」
「うーん」
「大丈夫。ちょっとだけだから」
「・・・そうだな」
二人はタンスに近づくと、一番下の引出しを開けてみました。
「ほう・・・」
「これは・・・」
不思議な事に引き出しの中は広い田んぼになっていて、まだ植えたばかりの稲が青々としていたのです。
二人はびっくりしながらも、次に下から二番目の引き出しを開けてみました。
するとその引き出しには、稲が伸びた田んぼが広がっていたのです。
二人は次に、下から三番目の引き出しを開けてみました。
その引き出しには、よく実った黄金色の稲が重くたれており、風が吹くたびにざわざわと揺れていました。
そして一番上の引き出しは二つに分かれていたので、先に左側を開けてみました。
中にはびっしりと米俵が入れられており、右側の引き出しにはその米で作ったのか、さっき食べた物と同じ餅がたくさん入っていました。
「なんとも・・・」
「不思議なタンスじゃ・・・」
引き出しを閉めた二人が不思議な光景に呆然としていると、間もなく帰って来た娘が悲しそうな顔を二人に向けました。
「わたしがあれほど止めて下さいとお願いしたのに、あなたたちはタンスの引き出しを開けてしまったのですね。
せっかく、あなたたちのどちらかを、わたしの婿に迎えようと思っていたのに」
娘はそう言うと、再びどこかへ行ってしまいました。
翌朝、家を出た二人が少し歩くと、そこは二人が目指していた炭焼き小屋でした。
「なんだ。こんな近くにあったのか」
「なあ、それよりあの家に戻って、あの娘に謝やらん?」
「そうだな。婿になるかどうかはともかく、約束を破ったのだから謝らんと」
それからのち、二人はあの娘に謝ろうと娘の家を探したのですが、どんなに探してもあの家もあの美しい娘も見つける事は出来なかったそうです。
おしまい
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