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3月22日の日本の昔話
  
  
  
  まゆにつば
 むかし、ある山寺に、たいそうかしこい小僧がいました。
   ある日の夕方です。
   小僧が和尚(おしょう→詳細)さんにようじをたのまれて、町へおりることになりました。
  「では、いってまいります」
   小僧が山みちをおりていくと、一ぴきのいたずらダヌキが、町の酒屋のでっち(→住み込みで働く子ども)にばけて、うしろからこえをかけました。
  「夕方は、キツネやタヌキにばかされやすいから、いっしょに町までいくよう、和尚さんにいわれてきました」
  「それはごしんせつに。ところで、でっちどんはいつ、山寺へこられました?」
  「ほんのさっき、きゅうなとどけものがあって、きたばかりです」
   タヌキのでっちは、すまし顔です。
   でも、町の酒屋なら、きのう、みそもしょうゆも和尚のすきなお酒も、とどけにきたばかりです。
  (さては、いたずらダヌキだな。なにか、たくらんでいるのだろうが、ようし、はんたいにだましてやろう)
   小僧は、だまされないおまじないに、まゆにつばをつけると、ニコニコでいいました。
  「これは、いいみちづれができてよかった。ところで、でっちどん。このあいだかした百文(三千円ほど)のお金、きょうかえしてくれるはずでしたね」
  と、手をだしました。
   タヌキはでっちにばけたてまえ、しらないとはいえません。
  「いま、かえそうとおもっていたんですよ」
   しぶしぶ、百文をわたしました。
  「そうそう、そのまえにかした二百文も、きょうというやくそくでしたよ」
   タヌキは、二百文とられました。
   これですんだわけではありません。
   小僧はさらに、
  「そういえばひと月まえに、小ばん(7万円ほど)を一まいかしたのも、きょうというやくそくでしたね」
  と、タヌキのあり金を、のこらずまきあげてしまいました。
   これいじょういっしょにいたら、まだまだ、なにをいわれるかわかりません。
  「ちょっと、ほかにまわっていくところがありますので」
と、とちゅうからにげだしました。
おしまい