
  福娘童話集 > きょうの江戸小話 > 6月の江戸小話 > あみがさのわすれもの
6月2日の小話

あみがさのわすれもの
   そそっかしいさむらいが、たびのとちゅうのちゃみせで、ひとやすみしました。
  「日ごろから、あわてものとわらわれておるが、こんどこそ、なにごともおちついて、わらわれないようにしよう」
   さむらいはそう心がけて、これまではしっぱいなく、たびをつづけています。
  「どれ、でかけるとするか。うまにつけた、にもつはある。刀はしっかりさしているし、けらいもちゃんとつれている」
   さむらいは、ちゃみせをあとにしました。
   しばらくいくと、さむらいは、ハッとして、ちゃみせにかけもどりました。
  「あみがさ(ワラなどで編んでつくった、日よけや顔をかくすための大きなぼうし)をわすれた。ここにあったろう」
   すると、ちゃみせのひとがわらいました。
  「あみがさなら、あたまにつけておいでですよ」
   さむらいは、あたまに手をやりました。
「これは、おもいがけないところにあったものだ」
おしまい