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6月4日の小話

日本一の親孝行
   両国(りょうごく→東京)のさかり場に、見世物小屋(みせものごや)が、ずらりとならんでおります。
   その中に、これはまた、ちょっとかわった見世物がありました。
  「さあさあ、日本一の親孝行は、こちら、お代は見てからでけっこう。さあ、日本一の親孝行」
   いせいのいい口上(こうじょう→見世物の内容紹介)につられて、中にはいりますと、正面に七十ぐらいのおばあさんと、そのそばに、四十ばかりの男がすわっております。
   おばあさんが、
  「これ、孝助(こうすけ)や。こしをたたいておくれ」
  と、いえば、そばの男が、
  「かしこまりました」
  と、おばあさんのこしをたたく。
  「肩をもんでおくれ」
  と、いえば、
  「かしこまりました」
  と、肩をもむ。
  「今夜のおかずには竹の子をほってきて、食ベさせておくれ」
  と、いえば、
  「かしこまりました」
  と、神妙(しんみょう→すなお)にこたえる。
   そのあげく、おばあさんが、
  「わしゃ、しょうべんに行きとうなった」
  と、いえば、
  「はい、かしこまりました」
  と、むすこは、背中をさし出す。
   おばあさんがおぶさると、むすこは、舞台(ぶたい)をぐるりと一回りして、楽屋(がくや→関係者の部屋)へひっこんでしまいました。
   ここで、見世物師は、
  「えーい、先のお方は、おかわりーっ」
  と、見物人の入れ替えをいたしました。
 むかしは、こんな見せ物小屋も、けっこうありました。
おしまい