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6月4日の世界の昔話
  
  
  
  王子と指輪
  インドの昔話 → インドの国情報
 むかしむかし、ある国に、若い王子がいました。
   この王子は、お母さんと二人で、まずしくくらしていました。
   ある日、お母さんは王子に一まいの金貨をわたしていいました。
  「これをつかって、らくなくらしができるように考えてごらん」
   お母さんは王子に知恵(ちえ)とお金のある、りっぱな王子さまになってほしいと思ったのです。
   つぎの日、王子は町で、頭に大きな袋をのせた男にあいました。
  「もしもし、その袋には、どんな宝ものがはいっているんですか?」
  「これはネコですよ。毛なみのよい上等のネコです」
   王子はネコが大すきだったので、たいせつな金貨をやって、ネコを一ぴきわけてもらいました。
  「まあ、ネコ一ぴきで金貨をだましとられるなんて、おまえはなんというバカものでしょう」
   お母さんは、ガッカリしました。
   でも何日かたつと、また王子に金貨をわたしていいました。
  「こんどこそ、気をつけてお金をつかうのですよ」
   ところが散歩にでて、ヘビ使いにであった王子は、こんどはヘビと金貨をとりかえてしまったのです。
   お母さんは、あきれて、
  「もうわたしには、とてもおまえのめんどうはみきれません、じぶんの力でくらすようにしなさい」
  と、いうと、王子をおいたまま、おばあさんの住んでいる、遠い国へいってしまいました。
   王子はネコとヘビをつれて、トボトボと旅にでました。
   こうして王子は何年ものあいだ、家から家へこじきをしてあるきながら、ネコとヘビをたいせつにそだてました。
   こうしたある日のこと、王子は町でお母さんにであいました。
   お母さんは、かなしんでいいました。
  「いつまでこじきをつづけているつもりなの。そんなきたないヘビは早くすててしまいなさい」
   王子は、かなしそうにいいました。
  「ヘビくん、ごめんよ。ぼくがだらしないから、仲良しのきみとも別れなければならないんだ。本当にごめんよ」
   すると、ヘビが言いました。
  「ああ、心やさしい王子さま、あなたはいいかたなのに、なぜ、不幸な目にばかりあうのでしょう。もしよかったら、わたしの国へいきましょう。わたしの父はヘビの国の王です。父は、わたしがせわになったお礼に、魔法の指輪(ゆびわ)をくれるでしょう。でも、指輪はぜったいにてばなしてはいけませんよ」
   こうしてヘビからもらった指輪をはめた王子は、ネコといっしょに旅をつづけ、ふかいジャングルにやってきました。
   日はとっぷりくれて、どこまでいっても、うす気味わるいけもののうなり声がします。
  「つかれたなあ。このジャングルが、わたしの国だったらいいのに。大きなご殿にあかりがともっていて、わたしをたすけてくれた人たちと、くらせたらいいのになあ」
   王子が一人ごとをいったそのとき、たちまちジャングルは消えてなくなり、緑の木につつまれた、かがやくようなご殿が目の前にうかびあがりました。
   ご殿のまどからは、王子のお母さんや知りあいの人たちの、うれしそうな顔がのぞいています。
   王子はいつのまにか、りっぱな王さまになって、おともをしたがえて立っていたのです。
   魔法の指輪のおかげで王さまになった王子は、美しいおきさきをむかえて、しあわせにくらしていました。
   ある日、となりの国の王さまが、この国の海辺をとおりかかりました。
  と、そこに、美しい長い髪が、クルクルとマリとなってとんできました。
  「なんときれいな髪だろう。きっと、美しい姫がおとしたものにちがいない。ぜひ、この人をきさきにむかえたいものだ」
   となりの国の王さまは、さっそくおふれをだしました。
  「この髪の持ち主をつれてきた者に、たくさんのほうびをつかわす」
   海辺に住むおばあさんが、これを見てニヤリとわらいました。
  「これは海に水あびにくる、おきさきの髪にちがいない。おきさきをだまして、となりの国の王さまのところへつれていこう」
   つぎの日、海辺に水あびにきたおきさきに、おばあさんはかなしげな身の上話しをしました。
  「まあ、かわいそうなおばあさん」
   やさしいおきさきは、おばあさんをご殿にひきとってやりました。
   さて、おばあさんはご殿ではたらいているうちに、魔法の指輪のひみつを知ってしまいました。
  「なんというすばらしい指輪だろう。あの指輪さえ手にはいれば、もうこっちのものさ」
   ある日、おばあさんはいかにもつらそうにいいました。
  「ああ、頭がいたくてわれそうだ。医者や薬ではなおせない。おやさしい王さま、おきさきさま。どうかちょっとだけ指輪をかしてくださいませんか」
   お人よしの王子は、ついうっかり指輪をわたしてしまいました。
   そのとたん、おばあさんのすがたは空にまいあがり、たちまち見えなくなってしまいました。
   となりの国の王さまは、毎日、首をながくして、いい知らせをまっていました。
  「王さま、やっと見つけましたよ。ごほうびをください」
   やってきたのは、あのおばあさんです。
  「この指輪をはめて、姫をよんでごらんなさい。そして、おきさきになれと命令すればいいのです」
   こうして、となりの国の王さまは、指輪の力で王子のおきさきをじぶんのものにしてしまいました。
   かわいそうに指輪を取られた王子は、おきさきもご殿もけらいもなくして、もとのジャングルにネコと二人だけでたっていたのです。
  「ヘビのいいつけをわすれて、指輪をかしたわたしがバカだった。これからはまた、こじきぐらしだ」
   王子とネコは、またあてのない旅に出ました。
   王子はやがて、となりの国のご殿の前につきました。
   そこではまずしい人びとが、おきさきから食べ物をもらっていました。
   王子とネコが、おちた食べ物をひろおうとすると、とつぜんネズミの大軍がやってきて、あっというまに、食べ物をぜんぶさらってしまいました。
   さあ、ようやくネコの出番です。
   ネコはカンカンにおこって、いちばんふとった王さまネズミの首をつかまえて、どなりました。
  「こらっ。わるいやつめ! おまえをたべてしまうからな!」
   王さまネズミは、ふるえながらいいました。
  「どうかおたすけください。そのかわり、なんでもいいつけをまもりますから」
  「ふん。それじゃこうしよう。わたしのご主人は、この国の王さまに指輪をとられてこまっている。とりかえしてくれれば、おまえの命はたすけてやろう」
   さて夜がふけると、大軍をひきいたネズミの王さまはご殿にむかいました。
  「宝の箱をさがすのだ!」
  「指輪をみつけて、王さまの命をおたすけしよう!」
   ネズミのけらいたちは手わけして、かたっぱしから宝の箱をあけてみました。
  「あっ、あったぞ。指輪だ!」
  「ばんざーい」
   こうして王子は、ネコのおかげで指輪をとりもどすことができました。
   王子が指輪をはめると、キラキラとかがやくご殿があらわれ、けらいが大ぜいあつまりました。
   そして美しいおきさきが、うれしそうにかけよってきます。
   ネコとヘビをそだてたお人よしの王子は、こうしてネコとヘビにたすけられ、しあわせにくらしたということです。
おしまい