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7月6日の小話
やかん
   むかしむかしのこと。
   やかんがながれに流れて、遠い国の浜辺(はまべ)に、うちあげられました。
   これをみつけた男が、
  「これは、かわったものが流れてきた。いったい、なんだろう?」
  と、あっちこっちひねくりまわしていると、おおぜいひとが集まってきました。
  「こりゃあ、なんだ?」
  「なんだい、おかしなもんだな」
  と、あれこれいって、次から次へと手にわたってゆきます。
   やがて、もの知り顔の男の手にわたりますと、男が、
  「これは、たぶん、かぶとだろう」
  と、いいます。
  「かぶとにしては、口がついているぞ、おかしいじゃないか」
  と、だれかがいうと、
  「なんだ、こんなことぐらい、わからぬのか。これをかぶると、耳がふさがる、そのとき、わきからものをきくのが、この口さ」
  「なるほど、それでわかったが、それなら、両方についていそうなものだが」
   すると、
「これも、かんたんなことさ。こっちは、ねころぶほうさ、口があったら、じゃまでしょうがない」
おしまい