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5月29日の世界の昔話
  
  
  
  ヤギとライオン
  トリニダード・トバゴの昔話 → トリニダード・トバゴの国情報
 むかしむかし、あるヤギが夕立(ゆうだち)にあいました。
   トリニダードの夕立は、ものすごいいきおいでふるのです。
   ライオンが家のまどから、ずぶぬれのヤギを見ました。
   ライオンはヤギに、
  「家にはいって、雨やどりをしないか?」
  と、声をかけました。
   ヤギはありがたいことだと思って、ライオンの家ヘはいりました。
   するとライオンは、大声でいいました。
  「ヤギくん。すわりたまえ。雨やどりのあいだ、ヴァイオリンをひいてあげよう」
   ヤギはますます、ありがたいことだと思って腰をかけました。
   ライオンはヴァイオリンをとりだすと、ひきながらうたいだしました。
  ♪雨のふる日にゃ。
  ♪家にいて、家にいて。
  ♪雨のふる日にゃ、家にいて。
  ♪おいしい肉のおいでをまつさ。
   ヤギは、そのおいしい肉が自分のことだとわかったのでビックリ。
   でも、おちついていいました。
  「ライオンさん、いいヴァイオリンをお持ちですねえ。わたしにもちょっとひかせてくれませんか?」
  「さあ、さあ、どうぞ」
   ライオンは上きげんで、ヴァイオリンをかしてくれました。
   ヤギはヴァイオリンをかりると、ひきながらうたいました。
  ♪きのう、ころした。一万びきのライオン。
  ♪一万びきのライオン、一万びきのライオン。
  ♪きのう、ころした。一万びきのライオン。
  ♪きょうはなんびき、ころそうか。
   こんどはライオンが、ビックリしました。
  (ヤギがライオンをころすなんて、本当だろうか?)
   ライオンは首をかしげましたが、用心したほうがいいと考えて、大声でおかみさんをよびました。
  「おい、おい、たきぎをとってこい!」
   この雨のなかをたきぎをとりにいけといわれて、おかみさんはおどろきました。
   それでもしかたなくでかけようとすると、ライオンは小さな声でいいました。
  「帰ってくるなよ」
   ヤギは聞こえないふりをしていましたが、こんどはもっと大きく早口でうたいだしました。
  ♪きのう、ころした。一万びきのライオン。
  ♪一万びきのライオン、一万びきのライオン。
  ♪きのう、ころした。一万びきのライオン。
  ♪きょうはなんびき、ころそうか。
   ライオンは、こんどは息子をよびました。
  「森へいって、おっかさんがなにをグズグズしているのか見てこい」
   そして、小さな声でつけたしました。
  「帰ってくるなよ」
   ヤギは聞こえなかったふりをしていました。
   そして、ものすごい大声で、ものすごい早さでうたいつづけました。
  ♪きのう、ころした。一万びきのライオン。
  ♪一万びきのライオン、一万びきのライオン。
  ♪きのう、ころした。一万びきのライオン。
  ♪きょうはなんびき、ころそうか。
   あんまり早口でわめいたので、ヤギはヘトヘトにくたびれました。
   それでもヤギは、うたうのをやめませんでした。
   とうとうライオンは、こわくていてもたってもいられなくなりました。
  「ヤギくん、しつれい。ちょっとうちのやつらをさがしにいってくるよ。どうぞゆっくり休んでいてくれたまえ」
  と、いうと、ライオンは大いそぎで家からでていってしまいました。
   ライオンが見えなくなったとたん、ヤギはヴァイオリンをほうりだして、いちもくさんににげだしました。
   それからというもの、ヤギはけっして、ライオンの家の前の道を通らなかったということです。
おしまい