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7月29日の世界の昔話
  
  
  
  ハンスとカエルの嫁さん
  ドイツの昔話 → ドイツの国情報
 むかしむかし、ある小さな美しい村に、お母さんと三人の息子が住んでいました。
   お母さんは、住んでいるこの家を三人の息子のうち、誰にあげようかとまよっていました。
   一番上の息子は、とても勉強ができましたが、働くのはあまり好きではありません。
   二番目の息子は、とてもよく働くのですが、ひどいケチでした。
   三番目の息子は、とてもやさしいのですが、おひとよしで、すぐにだまされてしまいます。
   お母さんはある日、いいことを思いつきました。
   さっそく息子たちをよぶと、お母さんは三束の亜麻(あま→アマ科の一年草)を一束ずつ手渡して言いました。
  「お前たち、この亜麻を好きな娘さんにつむいでもらいなさい。一番上手につむいで、いい織物(おりもの)をこしらえた娘さんを連れてきた息子に、この家をゆずろうと思うの」
  「そりゃあ、いい考えだ!」
   一番上の息子と二番目の息子は、亜麻の束を持ってすぐに家を飛び出して行きました。
  (ぼくの好きな娘は、つむぐのが上手だからね。家があれば、結婚してもちょっとだけ働けばいいんだ、あとは好きな勉強ができるぞ)
   一番上の息子はそう思い、二番目の息子は、
  (俺の好きな娘はつむぐのが早いのさ。おまけに金持ちだから、俺が家さえ持っていれば、金をどっさり持って嫁に来てくれるだろう)
  と、思ったのです。
   でも、三番目の息子は、しょんぼりと亜麻の束を持って家を出ました。
  (ぼくには好きな娘もいないし。・・・こまったなあ)
  行く所もないので、いつもの散歩道(さんぽみち)の沼地(ぬまち)をブラブラしていると、どこからか、しゃがれた声がしました。
  「ハンス、何かお困りかい? ケロ」
  「だれだ?」
    立ちどまってあたりを見ると、小さな木のしげみから、一匹のヒキガエルが飛び出して来たのです。
    ヒキガエルは、丸い目でハンスを見つめていいました。
  「ハンス、どうしたの? ケロ」
    ハンスはおどろいて、言いました。
  「ヒキガエルが、しゃべった!」
  「ビックリしなくても大丈夫だ。ケロ。それより、なにを困っているんだ? ケロ」
    そう言われてハンスは、
  「まあ、ヒキガエルに話しても仕方ないけど。じつは・・・」
  と、お母さんに言いつけられたことを話して聞かせました。
    するとヒキガエルは、ハンスのひざに飛びのって言いました。
  「それじゃあ、ハンス。わたしにやらせてよ。ケロケロ。わたしが一番なら、ハンスの花嫁さんね。ケロ。教会の結婚式には、白い花嫁衣装を用意して待っててね。ケロ。約束よ。ケロケロ」
    ヒキガエルがあまりにうれしそうに言うので、ハンスはつい、亜麻の束を渡してしまいました。
    ヒキガエルは亜麻の束を抱えると、木のしげみをはねまわり、どこかへ行ってしまいました。
  「ああ、行っちゃった。それにしても、俺はなんてまぬけなんだろう。カエルなんかにあげちまったら、あの家をすてたも同じじゃないか」
  と、ハンスはかたをガックリと落としました。
    次の日、ハンスが沼地へ出かけて行ってビックリ。
    小さな木のしげみに、フワリと大きな花がさいたような、きれいな織物がかかっているではありませんか。
    手にとってながめると、なんだか心の中があたたかくなり、誰でもひとめみたらほほ笑んでしまうほどのできばえです。
    ハンスはその織物を持って、家にもどりました。
    お母さんは、そのハンスの持ってきた織物をひとめ見たとたんにこう言いました。
  「ハンスの織物が一番上等だよ。この家は約束どおり、ハンスにあげましょう。さあハンス、お前の花嫁さんを連れておいで。花嫁衣装を用意して、教会で式をあげましょう」
  「あ、それが、その・・・」
    ハンスは、何と答えたらよいかこまってしまいました。
  「さあ、なにをグズグズしているの。はやく連れておいで」
    お母さんにせかされたハンスは、花嫁衣装(はなよめいしょう)の用意をして教会へ行き、牧師(ぼくし)さんに結婚式のお願いをしました。
    一番上の息子も、二番目の息子も、上手な織物を持ってきましたが、ハンスの持ってきた織物にはかなわなかったのです。
    二人ともハンスが家をもらうのをとてもくやしがり、なんとか花嫁が来ないことをいのりました。
    夕方になり、村の人が教会に集まって、結婚式が始まりました。
    でも、牧師さんの前に立っているのは、ハンス一人です。
    村の人たちは、ヒソヒソ言いました。
  「花嫁は、どうしたのかね?」
    二人の兄さんは。顔を見合わせてニヤリと笑いました。
  「このまま花嫁が来なけりゃ、この結婚はなかったことになるぞ」
  「それに、お母さんとの約束もなかったことになるぞ」
    ハンスは恥ずかしくて恥ずかしくて、どこかへ逃げてしまいたい気持ちです。
    このまま花嫁がいないのも恥ずかしいし、もしきても、ヒキガエルの花嫁と結婚するのも恥ずかしいし。
    どっちにしても恥ずかしくて、ハンスはヒキガエルに亜麻の束を渡したことをくやみました。
    そのとき、教会の扉(とびら)が開きました。
    村の人たちは、いっせいにふりかえります。
    扉を押してはいって来たのは、あのヒキガエルでした。
    ヒキガエルは、ピョンピョン飛びはねながらハンスと牧師さんの方へやって来ました。
    そして、ハンスと牧師さんにペコリと頭を下げてあいさつをすると、花嫁衣装のある控室(ひかえしつ)に行ったのです。
    ハンスはヒキガエルのあとを追いかけました。
    するとヒキガエルは、ハンスの目の前で花縁衣装に飛び込んだのです。
  「あっ!」
    なんと、ヒキガエルが花嫁衣装に飛び込んだとたん、花のようにかわいらしい娘さんの姿になったのです。
    娘さんがハンスに言いました。
  「ありがとう。ハンスさんが私を花嫁にしてくれたので、悪い魔法がとけました。さあ、結婚式をはじめましょう」
   娘さんとハンスは結婚して、幸せに暮らしました。
おしまい