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        福娘童話集 >お花見・桜のお話し > 二月の桜 
         
      お花見・桜のお話し 第 3 話 
       
        
      イラストレーター 「雪の雫」  運営サイト 灯路  イラストダウンロード サイズ2880px×2160px  
       
二月の桜 
愛媛県の民話→ 愛媛県情報 
      
       
      
      
       むかしむかし、桜谷というところに、おじいさんが孫の若者と一緒に住んでいました。 
 この桜谷には、むかしから大きな桜の木があります。 
 おじいさんは子どもの頃から桜の木と友だちで、春が来て満開の花を咲かせると、おじいさんは畑仕事もしないで桜をうっとりとながめていました。 
 そして花びらが散ると、おじいさんはその花びらを一枚一枚集めて木の下に埋めました。 
「桜や。今年も楽しませてくれて、ありがとうよ」 
 
 さて、そのおじいさんもやがて年を取り、とうとう動けなくなりました。 
 二月のある寒い日、おじいさんは北風の音を聞きながら、ぽつんと若者に言いました。 
「わしは今まで生きてきて、本当に幸せじゃった。だが、死ぬ前にもう一度、あの桜の花を見たいものじゃ」 
「そんな事を言ったって、今は二月だ。いくら何でも・・・」 
 若者はそう言いかけて、口をつぐみました。 
 おじいさんが目をつむり、涙をこぼしているのです。 
 きっと、桜の花の姿を思い浮かべているのでしょう。 
「おじいさん、待っていろよ」 
 若者はじっとしていられずに、外へ飛び出しました。 
 そして冷い北風の中を走って、桜の木の下に行きました。 
 今日は特別に寒い日で、桜の木も凍える様に細い枝先を震わせています。 
 若者は桜に手を合わせると、頼みました。 
「桜の木よ。どうか、お願いです。花を咲かせて下さい。おじいさんが死にそうなんです。おじいさんが生きている間に、もう一度花を見せてやりたいんです」 
 若者は何度も何度も祈り続けて、夜が来ても木の下を動こうとはしませんでした。 
 
 やがて夜が明けて、朝が来ました。 
 桜の木の下で祈り続けていた若者は、あまりの寒さで気を失っていましたが、急に暖かさを感じて目を覚ましました。 
「どうして、こんなに暖かいんだ? それに、甘い花の香りがするぞ」 
 若者はゆっくりと顔をあげて、桜の木を見あげました。 
「あっ!」 
 何と不思議な事に、桜の木には枝いっぱいに花が咲いていたのです。 
 二月のこんなに寒い日に、しかもたった一晩で咲いたのです。 
「ありがとうございます!」 
 若者は桜の木に礼を言うと、おじいさんの待つ家へ走って帰りました。 
 
「おじいさん! おじいさん! 私がおんぶするから、一緒に来て下さい」 
「何じゃ? どうしたんじゃ?」 
「いいから、出かけますよ」 
 若者はおじいさんを背負うと、桜谷へと向かいました。 
 やがて、桜の木がだんだん近づいて来ると、 
「おおっ・・・」 
 おじいさんは驚いて言葉も出せずに、ただ涙をぽろぽろとこぼしました。 
「よかったですね。おじいさん」 
 桜の花は朝日を浴びて、キラキラと光り輝いています。 
「これほど見事な桜の花を、わしは今まで見た事がない。わしは、本当に幸せ者じゃ」 
 そうつぶやくおじいさんに、若者も涙をこぼしながら頷きました。 
 
 それから間もなく、おじいさんは亡くなりましたが、それからも桜谷のこの桜の木は、毎年二月十六日になると見事な花を咲かせたそうです。 
      おしまい 
         
         
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