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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 佐賀の化けネコ
2008年 7月10日の新作昔話
佐賀の化けネコ
佐賀県の民話 → 佐賀県情報
むかしむかし、世の中が豊臣(とよとみ)から徳川(とくがわ)にうつると、佐賀の殿さまも、竜造寺築前守(りゅうぞうじちくぜんのかみ)から鍋島直茂(なべしまなおしげ)に代わり、裏舞台では両家の激しい権力争いが火花を散らしていました。
三代目、鍋島家茂(なべしまいえしげ)が城主の頃、ご城下に竜造寺家(りゅうぞうじけ)の跡継ぎである又一郎(またいちろう)という、目の見えない若侍が母親のおまさと、ひっそり暮らしていると、お城から殿さまの碁(ご)の相手に来るようにとのお達しがありました。
目が見えないながらも碁の達人であった又一郎は、長年の恨みをせめて碁ではらそうと心に決めて、城へ出かけていきました。
ところが又一郎は、そのまま行方不明になってしまいました。
心配のあまり夜も眠れないおまさは、家族同様にかわいがっていたコマという名の黒猫に、又一郎を探してくれるように頼みました。
「ニャー」
コマは身をひるがえして、城へと走り出しました。
それから何日かが過ぎた雨の降りしきる夜ふけに、ずぶぬれになったコマが、又一郎の生首をくわえて帰ってきたのです。
そのくやしそうなわが子の顔を見るなり、母は、碁の相手というのは表向きの理由で、本当は又一郎を亡き者にするのが目的だったことを知ったのです。
泣いて泣いて、泣きつかれたおまさは、思いつめた声でコマを呼ぶと、いきなり自分ののどもとに小刀をつきたて、
「コマよ、このしたたる血を吸って、母の恨みをはらしておくれ」
そう言い残して、死んでしまいました。
さて、桜の花が美しく咲きそろった春、お城の中庭では花見が開かれていました。
殿さまは大のお気に入りのおとよをそばにしたがえて、ご機嫌の様子です。
その時、突然に冷たい風が吹きすぎたと思うと、城中の灯がいっせいに消えて、女たちの悲鳴がおこりました。
家来の一人が急いでかけつけると、腰元(こしもと)の一人がのどを引き裂かれて、血まみれになって死んでいたのです。
この日から、けが人や死人が毎日のように出るようになりました。
そしてついに殿さままでが、原因不明の病いに倒れると、城中でいろんなうわさがとびかうようになりました。
殿さまと又一郎の碁の話は、家老(かろう)の小森半左衛門(こもりはんざえもん)がしくんだもの。
碁に負けた腹いせに殿さまが又一郎を切り殺すと、小森半左衛門が腹心に命じて、その死体を人気のない森に埋めた。
そしてその仕返しに、竜造寺家の黒猫が城に忍び込んでいるというのです。
このうわさを耳にして一番おそれたのは、もちろん家老の小森半左衛門です。
そこですぐさま、小森半左衛門は槍の名人の坂本兵衛門(さかもとひょうえもん)を殿の見張り役に命じて、自分はどこかへ姿をくらましてしまいました。
兵衛門(ひょうえもん)は、この役目についてまもなく、奇妙なことに気付きました。
いつも夜中になると決まって眠気をもよおし、翌朝になると殿の病状が悪化しているのです。
そこで次の夜、兵衛門が眠気ざましの薬草を口に含んで眠ったふりをしていると、どこからか現われたおとよが、殿の居間に入っていきました。
そしてそのすぐあと、殿の苦しむ声が聞こえてきました。
「なんと、おとよの方こそが、曲者(くせもの)であったか」
兵衛門は、おとよが居間から出てきたところを、
ブスリ!
と、槍で胸を突き刺しました。
「フギャーーー!」
おとよは猫のような悲鳴を上げると、ものすごい形相で兵衛門をにらみつけて、胸に槍を突き刺したままどこかへ消えてしまいました。
この騒動に驚いて集まってきた家来たちが、ふと庭の池を見ると、家老の小森半左衛門のはだかの死体が浮かんでいたのです。
そしてその頃、城下にある竜造寺家の墓の前でも、兵衛門の長い槍が突き刺さった黒猫が死んでいたということです。
おしまい
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