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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 梅津(うめづ)の長者
2008年 10月3日の新作昔話
梅津(うめづ)の長者
京都府の民話→ 京都府情報
むかしむかし、山城の国(やましろのくに→京都府南部)の梅津というところに、貧しい暮らしをしている夫婦がいました。
でも、いつも明るくて人には親切な正直者でしたので、それなりに幸せな日々を送っていました。
ただそれでも、今の貧しい生活から抜け出たいと願い、毎日えびすさまにお祈りをしていました。
それは自分の欲からではなく、夫は妻に、妻は夫に、おいしいものを食べさせ、あたたかい着物を着せてやりたいと願ったからでした。
ある時、男がせりを摘(つ)みに野原に出かけていると、尼さんが通りかかって、困り果てた様子で京への道を尋ねてきました。
男はていねいに道の説明をしていましたが、なかなかうまく伝わらないので、男はわかりやすいところまでの道案内をしてやりました。
そして目的地まで行くと、再びていねいにそれからの道を教えたので、尼さんにもようやく理解が出来たようでした。
そしてとても喜んだ尼さんは、
「おかげさまで助かりました。これはわずかですが、私のお礼の気持ちです。どうぞお餅でも買って食べて下さい」
と、言うと、一文銭を男に渡しました。
男は一文銭を握りしめると、尼さんに別れを言い、一目散に家へと帰りました。
そしておかみさんに尼さんとの出来事を話して、さっそく餅を買ってくるように言いました。
おかみさんも、とても喜んで、
「なんていい日なんでしょうね。せりもたくさん手に入ったし、お正月でもないのにお餅まで食べられるのだからね」
と、言うと、急いで餅を買いに走りました。
その一文銭で、餅を二個買うことが出来ました。
つきたての柔らかくて白いお餅を大事そうに抱えながらの帰り道、おかみさんは粗末な身なりのお爺さんに声をかけられました。
「そこのお人、どうぞ人助けと思って、この哀れな年寄りに、その餅を一つ恵んでは下さらんか」
大切なお餅でしたが、おかみさんはおじいさんににっこり微笑むと、
「はい。どうぞ、おあがり下さいな」
と、餅を一つ、お爺さんの手の中にそっと握らせました。
これでお餅は一つきりになってしまいましたが、おかみさんの心は、前よりももっとあたたかでした。
そして家に帰って、夫にそのことを話しますと、
「それは、とてもいい事をしたね」
と、男もとても喜び、残りの餅を仲良く二つに割って、とてもおいしそうに食べました。
さて、その夜のことです。
二人がとても幸せな気持ちで床につくと、二人の夢の中に突然えびすさまが姿を現して、とてもやさしい声でこう言ったのです。
「今日はお前たち、大そういいことをしたな。道端で餅を恵んでもらったのは、実はこの家に住みついている貧乏神だったのじゃ。その貧乏神がわしのところに来て涙ながらに言うことには、何でもお前たちのやさしい心根に心をうたれたから、この家を出て行きたいというのじゃよ。そのかわりに福の神を呼び寄せて欲しいと頼まれてな。さっそく福の神を呼んで、皆でこの家をもりたてることにしたのじゃ」
えびすさまの言葉が終わったとたん、大黒様(だいこくさま)や福禄寿(ふくろじゅ)、寿老人(じゅろうじん)や布袋(ほてい)さまが次々に現われ出て、口々に、
「さあ、祝いの酒盛りだ。皆で乾杯をしよう」
と、言いあっています。
そしてお酒がまわり始めた頃、えびすさまと布袋さまが相撲をとることになりました。
見事な名勝負の末、二人は組みあったまま夫婦の寝ている布団の上に転がりました。
「うひゃー!」
「きゃあー!」
びっくりした男とおかみさんは、そのひょうしに目を覚ましました。
「えびすさまが」
「布袋さまが」
二人は同じ夢を見ていたことを知って、さらにびっくりです。
その後、この夫婦は幸運続きでついに梅津一の大金持となり、人々から梅津の長者と呼ばれました。
おしまい
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