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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 絵から抜け出した子馬
2009年 2月20日の新作昔話
絵から抜け出した子馬
香川県の民話 → 香川県情報
むかしむかし、ある村のお寺に、絵をかくのが何よりも好きな小僧さんがいました。
お経も覚えずに、ひまさえあれば絵ばかりかいていました。
「仏さまに仕える者が、そんな事でどうする。絵をやめないのなら、寺を追い出してしまうぞ」
和尚さんからきびしくしかられても、やっぱり絵をあきらめることができません。
そこで夜中にこっそり起きて、絵をかくことにしました。
ある日の事、小僧さんは子馬の絵をかきあげました。
まるで生きているみたいで、自分でも見とれるほどです。
小僧さんはうれしくなって、和尚さんに見つからないように、自分の部屋にかくしておきました。
ところがしばらくたってこの村に、困ったことが起きました。
すっかり黄色くなった麦の穂(ほ)を、食い荒らすものがあらわれたのです。
豊作だとよろこんでいたお百姓さんたちは、とてもくやしがりました。
「こんな悪さをするやつは、とっ捕まえて殺してやる」
お百姓さんたちは畑に小屋をつくって、さっそく見張りをすることにしました。
するとその晩、どこからともなく一頭の子馬があらわれて、麦畑の中へ消えていくではありませんか。
「さては、あの子馬が麦を食べるのかもしれないぞ」
「それにしても、なんてきれいな子馬だ」
見張りのお百姓さんたちは、こっそり子馬のあとをつけました。
そんな事とは知らない子馬は、うれしそうに麦畑を駆け回ると、立ち止まってはおいしそうに麦の穂を食べました。
「やっぱり、あいつだ」
「もう、ゆるせない」
お百姓さんたちは飛び出して、子馬をとりかこみました。
「逃がすんじゃないぞ」
「それ、追うんだ」
お百姓さんたちが必死で追いかけて行くと、馬はお寺の中にかけこんでいきました。
「なんだ? お寺で馬を飼うわけないし、あずかったという話も聞いていないが」
不思議に思いながらも、次の朝、お寺に行ってみるとどうでしょう。
馬の足あとが、てんてんと小僧さんの部屋まで続いているのです。
「まさか」
お百姓さんたちから話を聞いて、和尚さんが急いで小僧さんの部屋に行ってみました。
するとそこには、子馬の絵をだいた小僧さんがすわっていました。
子馬は今にも絵から飛び出そうと、じっとこっちを見ています。
「こ、こ、この馬です」
あとからやってきたお百姓さんたちも、その絵を見て思わず息を飲みました。
泣き出しそうになっている小僧さんを見て、和尚さんが言いました。
「よし、よし。これからは、自由に絵をかいてもいいぞ」
そんなことがあってから、小僧さんは仏さまの絵をたくさんかいて、村の人たちにわけてあげました。
村の人たちは、みんなその絵を家宝にして、大事にしたということです。
おしまい
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