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2009年 4月20日の新作昔話
ひげの長者
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて
むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。
きっちょむさんの村には長兵衛さんといって、仙人の様に長いあごひげを生やした、お金持ちの老人がいました。
そしてこの老人は、
「おれのひげは、日本一だ」
と、いって、いつもいばっているのです。
そして自慢のひげを褒める人がいれば、誰でも家に連れてきて、ごちそうをするのでした。
ある夜の事、きっちょむさんが長兵衛さんの家に遊びに行ってみると、長兵衛さんは見知らぬ二人の旅人をもてなして、飲めや歌えの大騒ぎでした。
「こんばんは、長兵衛さん。今日はごきげんですね」
きっちょむさんが言うと、長兵衛さんはにこにこ顔で、
「きっちょむさん、喜んでくれ。実はこの客人は、伊勢の国(いせのくに→三重県)のひげの長者のお使いだそうだ。ひげの長者は、その名の通り大変長いひげを持っておられたが、一年前に亡くなられる時、遺言として『これから日本一の長ひげの男を探し出して、その男に黄金千両をわたしてくれ』と言ったそうじゃ。それで、このお客さんたちは国々を探し歩いた末、やっとわしの日本一のひげを見つけて下されたのじゃ。だからわしは、明日から客人と一緒に伊勢の国へ行って、黄金千両をもらってくるんだ」
と、答えました。
「へえ、まあ、それはおめでたい事で」
きっちょむさんは適当に相づちを打って、自分もごちそうになりましたが、旅人が酔いつぶれて寝てしまうと、長兵衛さんを別室に呼んで尋ねました。
「長兵衛さん、お前さんは寝る時、ひげは、ふとんの外に出して眠りますか? それとも入れて眠りますか?」
「おや? きっちょむさん、どうしてそんな事を聞くんだね?」
「いや、実はね、さっき、かわや(→トイレの事)に行ったとき、客人が二人で話しているのを何げなく耳にしたが、これもやはり長者の遺言で、黄金を渡す前にひげの出し入れを聞いて、はっきり答えが出なければ黄金を渡さないとか。遺言だから、長兵衛さんに言って聞かせるわけにもいかず、うまく答えてくれればいいと話し合っていたんだよ」
「なんだ、そんな事だったら、わけもなく答えられるよ。なにせ、自分のひげじゃないか」
長兵衛さんは、そう言いましたが、でも、いよいよふとんに入ってみると、今まで気にもしなかった事なので、いくら考えてもどっちかわかりません。
試しに、ひげをふとんの中に入れて眠ろうとすると、いつも出していた様な気がしますし、かといって出してみると、なんだか寒くて眠れません。
「こりゃ、こまったぞ」
長兵衛さんは、ひげを入れたり出したりしているうちに、真夜中になってしまいました。
すると、どこからともなく、ミシリ、ミシリという足音が聞こえてきます。
「はて? 今頃、だれだろう?」
顔をあげてみると、しょうじに、二つの怪しい影がうつりました。
後を付けてみると、その影は土蔵の前に忍び寄って、扉の錠を壊し始めました。
おどろいた長兵衛さんは、大声で、
「泥棒! 泥棒!」
と、叫びました。
するとその声に家の人たちが目を覚まして騒ぎ出したので、泥棒はそのまま、どこかへ逃げてしまいました。
さて、夜があけると、きっちょむさんがにこにこしながらやってきました。
そして尋ねました。
「長兵衛さん、ひげの事はわかったかね?」
「ああ、きっちょむさん。それどころか、あの客人は泥棒だったよ」
「で、何か盗まれたかね?」
「いや、昨夜はひげの出し入れが気になって、昨夜は眠れなかったんだ。そのため、はやく泥棒に気がついたから、何も盗まれなかったよ。だがきっちょむさん、あの泥棒は馬鹿な奴だな。ひげの出し入れの事を言わなければ、わしはぐっすりと眠っていただろうに」
それを聞いたきっちょむさんは、大笑いしました。
「わっはははっ。長兵衛さん、そのひげの出し入れは、実はおれの作り話なんだ。あの二人があやしいと思ったので、お前さんが眠らないように、あんな事を言ったんだよ」
「おや、そうだったのか。でも、どうしてあの客人が泥棒だということに気がついたんだ?」
「長兵衛さん、それはお前さんのひげが日本一でないからだ。お前さんより長いひげを持つ者は、町へ行けばいくらでもいるさ。何でも自分が一番だとうぬぼれると、今度のように人からだまされるんだ」
「・・・なるほど」
この事にこりた長兵衛さんは、もうひげの自慢をしなくなったそうです。
おしまい
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