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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > お化け見物 
      夏の怖い話し特集 
2009年 7月10日の新作昔話 
          
          
         
        お化け見物 
  三重県の民話 → 三重県情報 
      
       むかしむかし、伊勢の国(いせのくに→三重県)の津(つ)というところに、一人の侍が住んでいました。 
         とても変わった男で、お化けや幽霊が大好きなのです。 
         お化けや幽霊も、その事を知っているのか、この侍の家には、毎日のようにあやしい事がおこるようになりました。 
         ある晩、侍が夜中にふと目を覚ますと、座敷の方から、なにやらにぎやかな音が聞こえてきます。 
        「はて? こんな夜中に何だろう?」 
         侍が座敷へ行ってみると、たんすの引き出しが一人でに開くと、中から出てきた着物が、ヒラヒラと踊っているではありませんか。 
         お化け好きな侍は、それを見ると手を叩いて喜びました。 
        「よっ、いいぞ。もっともっと踊れ」 
         するとそのうちに、部屋にあった机やざぶとんも、ピョンピョンと踊りはじめます。 
         そして、棚にかざってあった人形までもが、輪になって踊り出しました。 
         侍は、いよいよおもしろがって、 
        「おい、火ばち。じっとしていないで、お前も踊れ」 
        と、言うと、重い火ばちもフワフワと浮かんで、ゆらゆらと踊り出しました。 
         そのうちに、酒どっくりも踊り出したので、侍が、 
        「こら、お前は踊らんでもいい。それよりも、わしのさかづきに酒をつげ」 
        と、言うと、酒どっくりは、仕方なく宙に浮いたまま、侍の持つさかづきに何度も酒をつぎました。 
         これには、お化けも弱ってしまい、踊っていた品物は次々と元の場所へ帰っていきました。 
        「なんだ、なんだ、もうおしまいか。どんなお化けか知らんが、なさけないやつだ」 
         侍はそう言うと、そのまま大の字になって寝てしまいました。 
         人をおどかすお化けが、人に喜ばれては立場がありません。 
         お化けたちはそれからというもの、侍が家にいるときに出てくる事はありませんでした。 
         ところが、侍が殿さまにお供で、遠くの国へ出かけることになったのです。 
         するとその晩、さっそくお化けたちは大騒ぎを始めました。 
         夜中に座敷のほうで、なにやら騒がしい音がするので、奥さんや家の者たちが行ってみるとどうでしょう。 
         着物や家の道具だけでなく、一つ目小僧やろくろっ首にカラカサお化けまでもが、陽気に踊りまくっているのです。 
         みんなはびっくりして、その場に腰を抜かしてしまいました。 
         時が過ぎ、やがて一番鳥が鳴きだすと、お化けたちの姿はすうっと消えて、着物も家の道具も、もとのところにもどって静かになりました。 
        「やれ、やれ、助かった」 
         みんなはほっとして、お互いの無事を喜びました。 
         しかし考えてみると、この家のお化けは、ただ踊るだけのゆかいなお化けで、踊り終わった後は、きちんと後片付けもするし、物を壊したり人に怪我をさせるわけではありません。 
         そこで奥さんが、こう言いました。 
        「こんな事ぐらいでおどろいていては、主人に申し訳がありません。今夜はひとつ、みんなで腰をすえて、お化けの踊りを見物しましょう」 
        「なるほど、奥方のおっしゃる通りだ。御主人がきもっ玉の太い人として有名でも、家の者が腰抜けでは世間の笑い者になる。それにもし何かがあれば、みんなでお化けをやっつけようではないか」 
         家の者たちも、覚悟を決めました。 
         さて、その晩は家中の者が座敷に集まって、お化けが出てくるのを待つ事にしました。 
         奥さんは、眠そうな子どもたちも座敷に座らせて、 
        「もうすぐ、おもしろいものが見られるからね」 
        と、子どもたちをはげましました。 
         やがて真夜中になると、座敷の戸がすうっと開いて、奥さんの着物が出て来ました。 
         続いて女中さんや子どもの着物が出て来ると、着物たちはみんな輪になって、ゆらりゆらりと踊り始めました。 
        ♪ピー、ピー、ピイヒャラリー 
        ♪ピイヒャラリー、ピイヒャラリー 
        ♪ドンドンドン。 
         お祭りのような音がしたかと思うと、座敷にあった道具が次々と宙に浮かび、台所のなべまでが飛んできました。 
         そのにぎやかな事、子どもたちも奥さんも家の者たちも、その不思議な出来事に大喜びです。 
         そしてお化けが小鬼の姿になって座敷に現れると、みんなは大きな声で、 
        「よっ、待ってました」 
        と、大きな拍手です。 
         人間に大喜びされたお化けは、くやしいやらなさけないやら。 
        (なんてやつらだ。ゆうべはあんなに怖がっていたくせに。まったく、この家の連中は) 
         それでも、しばらくは意地になって踊っていたのですが、やがて宙に浮いていた物たちが元の場所へ帰って行き、座敷の中は静かになりました。 
        「あれえ、今夜はもうおしまいか」 
        「そうだ、そうだ。せっかく、おもしろくなってきたのに」 
        「おい、お化けたちよ。頼むからもう一度出てくれよ」 
       家のみんなは口々に言いましたが、お化けが出てくることは、二度となかったそうです。 
       
      ※ この朗読は、以下の方により、ご提供を受けた作品です。 
       
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      おしまい 
         
          
         
        
       
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