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2009年　9月23日の新作昔話



徳利(とっくり)の又吉(またきち)
新潟県の民話→ 新潟県情報

　むかしむかし、佐渡金山(さどきんざん)の無宿者(むしゃくもの→戸籍のない人)の一人に、又吉(またきち)という男がいました。
　又吉は奇術が得意で、ある日、みんなが見ている前で、自分の首をするすると伸ばしてみせました。
　首は上の方から下を見おろして、にたっと笑うと、またするすると縮んで、元通りの又吉になったのです。
　仲間たちは、びっくりです。
「ろくろっ首だ！」
「お前は、お化けなのか？」
「いいや。おら、化け物なんかじゃねえ。これにはちゃんと仕掛けがあるんだ」
と、又吉は首が伸びる種明しをしてみせましたが、仲間は信じようとしませんでした。
　ほかにも又吉は、徳利の中へ身を隠す奇術も出来ました。
　部屋の真ん中に一本の徳利をおいて、
「いいか。おれがこの小さな徳利の中に隠れてみせるから、よーく、見ておれよ」
と、前口上(まえこうじょう)をのべて、それからあっという間に又吉の姿が消えてしまいました。
「消えたぞ。おい、本当に徳利の中に入ったかどうか見てみろよ」
　みんなが、われ先にと徳利の中をのぞきこむと、たしかに徳利の中には、何かが入っていました。
「おーい、又吉よー」
と、呼ぶと、かすかに、
「おーい、ここにいるぞー」
と、呼んでいる声が、たしかに徳利の中から聞こえてきます。
「まったく、不思議な事だ。いったい、どうやって入ったんだ？」
　仲間が頭をかしげていると、
「おーい、おら、今から出るだよ」
と、徳利の中から聞こえたかと思うと、又吉が、にこにこ笑ってみんなの前に立っているのです。
　この奇術があまりにも見事なので、『徳利の又吉』というあだ名がついたそうです。
　あるとき、仲間の一人が又吉にたずねました。
「お前、その芸当でこの金山から逃げ出せるだろうに、どうして逃げねえんだ」
　すると、徳利の又吉は
「そりゃあ、金山から逃げるなんざ、わけはねえよ。だども、おらのように帰る国のねえもんは、どこさ行けばいいだ。おら、死ぬまで、こうしてこの金山で働くしかねえんだ」
と、さびしそうに笑ったそうです。

おしまい