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福娘童話集 > きょうの新作昔話 >沼女の手紙
2009年 9月28日の新作昔話
沼女の手紙
岩手県の民話 → 岩手県の情報
むかしむかし、あるところに、みぞう沼という沼があり、その沼の近くに孫四郎(そんしろう)というお百姓が住んでいました。
ある日、村では村人たちが大勢で、お伊勢参りへ出かけることになったのですが、孫四郎は貧乏だったので、お伊勢参りには行けず、いつもの様に、みぞう沼へ行って、岸の草を刈っていました。
すると沼から突然、それは美しい女の人が出てきて、孫四郎にこう言ったのです。
「お前さんが、毎日そうやって岸の草を刈ってくれるので、本当にありがたく思っております。何か礼をしたい思うが、望みの物はありませんか?」
「はい、わたしはお伊勢参りがしたいのですが、お金がなくて、それが出来ません」
孫四郎がいうと、女の人はにっこりして、
「それはおやすいこと。お伊勢参りに行くお金をあげましょう。しかし、一つ頼みがあります。途中、富士山のふもとに青沼というのがあるから、そこへ寄って来てもらいたいのです。その沼へ行って手を叩くと、女が出てきます。それはわたしの妹ですから、手紙を渡して下さい。さあ、これは、お伊勢参りのお金と手紙です」
そういって沼の女は、お金と手紙をくれました。
孫四郎は大喜びで、お伊勢参りに参加し、みんなと一緒に旅立ちました。
そして何日かして、富士山の近くに来たとき、孫四郎はみんなと別れると、教えられた青沼を探すことにしました。
孫四郎は、六部(ろくぶ→六十六ヶ所のお寺をまわる巡礼の人)に出会ったので、青沼の場所を尋ねてみると、六部が不思議そうに聞きました。
「青沼ですか? 知ってはいますが、なぜ、青沼へ行くのですか? あそこは、怪しい物がいるとのうわさですよ」
「怪しい物? いや、そんなはずは。わたしは字を読めないので、何が書いてあるのか分かりませんが、これは親切な沼女から預かった手紙です」
そこで孫四郎は沼女の事を話して、沼女にもらった手紙を六部に見せました。
すると六部は、その手紙を読んで、
「いや、これは大変だ!」
と、言うのです。
「何が、大変なのですか?」
孫四朗がたずねると、六部が手紙を読んでくれました。
《この男は、毎日、わたしの沼の草を刈って、わたしの隠れる場所をなくしてしまう。とって食おうと思うけれど、そうすると、沼にわたしのいる事が人間にばれてしまう。そこで、お前の所へ寄らせるから、代わりにとって食べておくれ。姉より》
それを聞いた孫四郎が、まっ青な顔で震えていると、六部がにっこり笑って言いました。
「心配ない。わたしが手紙を書き直してあげよう」
そして六部は、手紙を、
《この男は、毎日、わたしの沼の草を刈ってくれるので、何かお礼をしたい。そこで、お前の方でお礼の用意をしてください。金を生む馬をやってくれるとありがたい。姉より》
と、書き直してくれました。
そして孫四郎はその手紙を持って青沼へ行き、パンパンパンと手を叩きました。
すると美しい女が沼から出てきたので、孫四郎は手紙を渡しました。
手紙を読んだ女は、しばらく不思議そうな顔をしていましたが、
「ふーん。あの姉が人間にお礼をねえ。・・・まあいい、それでは沼の中へ来てください」
と、言いました。
「あの、沼の中へ来いと言っても・・・」
孫四郎が困っていると、
「わたしにおぶさって、目をつぶりなさい」
と、女が言いました。
孫四郎が言われたように女におぶさって目を閉じると、間もなく、
「もう目を開けていいですよ」
と、女がいいました。
目を開けてみると、そこはとても美しい家の中です。
金びょうぶ、銀びょうぶがたってあって、床の間には、とても美しい宝石が飾ってあります。
孫四郎はしばらくの間、そこで泊まる事になりました。
毎日毎日、大変なごちそうが出て、女中たちが琴やしゃみせんで、孫四郎をもてなしてくれます。
あっという間に数日間が過ぎ、孫四郎は沼女に言いました。
「あの、そろそろ帰らせてもらいます」
すると沼女は、馬屋から一頭の馬をひいてきて孫四郎にくれました。
「この馬に、一日に一合の米をやれば、金を一粒生みます」
そして沼女は孫四郎と馬を背負うと、再び沼の外へと送ってくれました。
孫四郎は沼女にお礼を言うと、馬にまたがって言いました。
「さあ、とにかく、お伊勢参りに行かなくては」
すると馬が、『わかった』と言うように、ヒヒーン! と、いななくと、不思議な事に孫四郎と馬は、もう伊勢神宮へ来ていたのです。
「うひゃー、何て足の速い馬だろう」
孫四郎は驚きつつも、とにかくお伊勢参りをすませました。
そして再び馬にまたがって、
「さあ、今度は村に帰らないと」
と、言うと、馬がヒヒーン! と、いなないて、もう村の入り口に来ていたのです。
それからあと、孫四郎は馬を奥座敷へ大事につないでおいて、毎日一合ずつの米をやりました。
すると沼女の言った様に、馬は一粒ずつの金を産み落としたのです。
一粒といっても金ですから、大変な値打ちです。
孫四郎は、やがて大金持ちになりました。
さて、孫四郎にはなまけ者で欲張りな弟がいます。
その弟が、
「兄さんが、にわかに長者になったのには、わけがあるに違いない」
と、思い、そっと孫四郎の家に忍び込むと、中の様子を見ていました。
すると奥座敷に馬が一頭隠してあって、それが毎日一合の米を食べては、一粒の金を生んでいるとわかったのです。
「なるほど、兄さんが長者になったのは、あの馬のおかげか。しかし、毎日一合の米で一粒の金とはもったいない。おれなら、もっと米を食わせて、もっと多くの金を手に入れるのに」
そこで弟は、孫四郎が留守のすきに馬を盗み出すと、自分の家に連れて行って、何升もの米を馬に無理矢理食べさせたのです。
「さあ、食え食え、どんどん食って、金をどっさり生んでくれ」
するとと馬は、とても元気になって、
「ヒヒヒーン! ヒヒヒーン!」
と、いななき、家から飛び出して、陸中の国(りくちゅうのくに→岩手県と秋田県の国境)のある山の上へ飛んで行ってしまいました。
今では駒ヶ岳(こまがたけ)と言われている山が、その馬が飛んで行った山だそうです。
おしまい
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