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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > 甚五郎(じんごろう)と新田井(にったい)せき
2010年 9月24日の新作昔話
甚五郎(じんごろう)と新田井(にったい)せき
兵庫県の民話→ 兵庫県情報
江戸時代、但馬(たじま)の豊岡(とよおか)と、出石地方(いずしちほう)の田んぼは、井せきをつくって、そこから水を引いていたそうです。
その水によって、その年の稲作の良し悪しが決まるので、水の確保はとても大切でした。
新田井(にったい)せきもそのひとつで、井せきをせき止めする日には奉行まで出てきて、不公平が無いように監督をしていたといわれています。
そのため井せきのほとりには番小屋までつくられて、夜も昼も厳重な監視が続けられたのです。
ところが、ひとつ困った事がありました。
新田井せきが止められると水かさが増すので、伊豆村(いずむら)は水につかってしまうのです。
村人たちは毎年のように役人にかけあうのですが、いっこうに取り合ってはくれません。
そんなある日の事、この村の百姓で甚五郎(じんごろう)という男が、何を思ったのかサンダワラ(→わらで作った米俵のふた)を持って川へ出かけて行きました。
その頃、新田井せきでは相変わらず番人が、厳しい監視を続けています。
すると上流の方からサンダワラが流れて来て、水をせき止めてある土俵にあたったのです。
するとわらで作られた軽いサンダワラなのに、土俵がくずれて水が流れ出したではありませんか。
番人は、びっくりです。
そしてそのサンダワラは、来た道をさかのぼって、上流へと帰って行くではありませんか。
「サンダワラが、流れに逆らって上流へ行くとはおかいしい。・・・さては!」
番人は鉄砲をとると、サンダワラめがけて、
ドスン!
と、撃ちました。
すると、川の水はみるみるまっ赤に染まって、サンダワラを頭にくくりつけた甚五郎の死体が浮いたのです。
知らせを聞いて駆けつけた村人たちは、
「バカじゃのう。下へ流れていれば助かったのに」
と、いいながら、村のために死んだ甚五郎に涙したのです。
その後、村では甚五郎を手厚くとむらい、毎年うら盆がくると、田んぼに美しいまんとうの火がともされるのだそうです。
おしまい
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