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福娘童話集 > きょうの新作昔話 >大判小判をはき出す狛犬
2014年 1月13日の新作昔話
大判小判をはき出す狛犬
広島県の民話→ 広島県の情報
むかしむかし、あるところに、心優しい長者がいました。
やがて心優しい長者が死んで長者の跡を二人の息子の兄が継いだのですが、その兄がひどいけちで、自分以外の者がご飯を食べるのはもったいないと、たくさんいた使用人たちをみんなやめさせてしまったのです。
そうなると長者の家はだんだん貧乏になって、それに腹を立てた兄は弟や母親をいじめるようになりました。
そんなある日、兄のいじめに耐えかねた弟は母親を連れて家を飛び出すと、以前、家で働いていた作じいさんを訪ねていきました。
そして弟は、お母さんに楽をさせてあげようと、朝から晩まで一生懸命に働いたのです。
ある晩の事、どこからか弟を起こす声がします。
弟が目を覚ますと、何と目の前に金色に光る神さまが現れてこう言ったのです。
「母親のために毎日真面目に働くとは感心だ。明日の朝、何か入れ物を持って金噴き明神の広場へ来なさい」
次の朝、弟は早くに起き出すと、ザルを持って金噴き明神の庭へ行ってみました。
しかし広場には、誰もいません。
(あれは、夢だったのかな?)
そう思った弟が帰ろうとすると、どこからか声がしました。
「これ、帰るでない。ここじゃ、ここじゃ」
弟が辺りを見回すと、その声は大きい石の狛犬(こまいぬ)から聞こえてくるのでした。
弟が狛犬に近づくと、その狛犬が言いました。
「神さまが言っていた若者はお前じゃな。おい、わしの頭を三べんさすって、『金出ろ、金出ろ』と言ってみろ。そしたら口から金を出してやろう。そしてザルがいっぱいになる前に、もう一度、頭をさするのだ」
「はい」
弟は言われた通りに狛犬の口の下にザルを置くと、狛犬の頭を三べんさすって『金出ろ、金出ろ』と言ってみました。
すると狛犬は大きい口を開いて、
「ウォン!」
と、ひと声吠えると、口からザラザラ、ザラザラと大判小判を吐き出したのです。
そして弟が、もう一度、狛犬の頭をさすると、狛犬の口がカチッと閉じて、大判小判を吐き出すのをやめたのです。
「神さま、狛犬さま、ありがとうございます」
弟は大喜びでザルに一杯の大判小判を家に持って帰ると、作じいさんの家を立派な屋敷に建て替えて、お母さんと作じいさんに楽をさせてあげました。
さて、弟が金持ちになった話を聞いた兄が、弟の所へやって来て言いました。
「おい、どうやって大金を手に入れたのだ?」
弟は大判小判を吐き出す狛犬の事を教えてやりました。
「そうか。そうやってザル一杯の大判小判を手に入れたのか。しかしザル一杯とは、お前も欲のないことだ」
欲深い兄はザルではなく大きな四斗樽を用意すると、それをかついで狛犬の所へ行きました。
そして弟に聞いた通りにやって、四斗樽一杯の大判小判を手に入れたのです。
「わははは! これでおれは国一番の大金持ちだ!」
兄はたちまち大金持ちになりましたが、でもこれで満足する兄ではありません。
「待てよ。狛犬の腹の中には、もっと多くの大判小判が詰まっているに違いない。それも頂いてやろう」
そこで兄は閉じた狛犬の口を無理矢理開くと、その中に手を入れて中の大判小判を取り出そうとしたのです。
「よし、思った通り狛犬の腹の中に大判小判が詰まっているぞ。これを取り出せば・・・」
その時、狛犬の目がギロリと兄をにらんで、口に突っ込んだ兄の手を噛み切ろうとしたのです。
「危ない!」
びっくりした兄がすぐに手を引っ込めたので、兄は狛犬に腕を食いちぎられるのをまぬがれました。
「恐ろしい狛犬だ。・・・まあいい。この大判小判を使い切ったら、また取りに来ればいいだけだ」
そう言って大判小判が詰まっている四斗樽をふと見ると、その中の大判小判はいつの間にかただの石ころに変わっていたのです。
そしてその後、狛犬が口を開くことは二度とありませんでした。
おしまい
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