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福娘童話集 > きょうの新作昔話 > わしのたまご
2014年 3月14日の新作昔話
わしのたまご
むかしむかし、ある所に心のやさしいお百姓さんがいました。
ある日、畑に行ったお百姓さんは、蛇がカエルを飲みこもうとしているのを見つけました。
カエルは恐ろしさのあまり石のようにじっとして、逃げることも出来ません。
お百姓さんは、思わず蛇に言いました。
「これこれ、こんなに怖がっているではないか。蛇よ、今日のところは逃がしておやり」
そしてつい、こんな冗談を言ってしまったのです。
「カエルを逃がしてやったら、わしの娘を嫁にやるよ」
すると蛇は、お百姓さんの目を見つめて、どこかへ行ってしまいました。
「カエルよ、助かってよかったな」
お百姓さんがカエルに言うと、カエルは小さく頭を下げてピョンピョンと小川の方へ跳ねて行きました。
それから、何日かたった夜のこと。
お百姓さんの娘の部屋に、美しい若者がやって来ました。
娘はひと目見て、この若者が好きになりました。
その次の夜も、その次の夜も、若者は娘の部屋にやって来て、朝が来るとスーッと消えるようにいなくなってしまいます。
それを知ったお百姓さんが娘に話を聞くと、娘は幸せそうな顔で、
「私、あの方のお嫁さんになったの」
と、言うではありませんか。
(娘は若者を気に入っている様だが、あの若者の目はまるで蛇の様で気味が悪い。何とかしないと)
お百姓さんが考えていると、戸をたたく者がありました。
戸を開けると、見なれない男が立っています。
「はて、どなたですか?」
「私は、日本一の易者です。困り事があったら、相談にのりましよう」
「そうですか。それは都合が良い」
お百姓さんは易者を家に入れると、娘のところへ毎晩やって来る若者のことを話しました。
「なるほど、蛇の様な目をした美しい若者ですか」
易者は目をつむってしばらく考えると、お百姓さんに言いました。
「娘さんは、人間ではないものと結婚したようです。
このままでは、娘さんの命が危ない。
明日の夜にでも娘さんに、
『婿殿に、庭の大きな木の上にあるたまごを三つ取ってもらいなさい』
と言いなさい。
庭の大きな木の上にはワシの巣があって、たまごが三つあるはずですから」
翌日、お百姓さんは易者に教えられた通りの事を娘に言いました。
「婿殿に、庭の大きな木の上にあるたまごを三つ取ってもらいなさい」
その夜、若者がやって来ると娘が言いました。
「家の庭に、大きな木があるの。その木にたまごが三つあるはずだから、取ってきてほしいの」
「よし、わかった。すぐに取ってきてあげるから、部屋で待っていなさい」
若者は庭に出て大きな木に飛びつくと、スルスルスルと登り始めました。
その様子をこっそり見ていた娘とお百姓さんは、
「あっ」
と、叫びました。
月あかりに照らされたその若者の姿は、人間ではなく蛇だったのです。
木から降りてきた蛇はもとの美しい若者の姿になると、取ってきた二つのたまごを娘に差し出しました。
娘はそのたまごを、ふるえる手で受け取りました。
「どうしたんだい? たまごを取ってきたのが、ふるえるほどうれしいのかい。ああ、約束は三つだったね。もう一つも取ってくるから、少し待っておいで」
若者はそう言って庭に行くと、また大きな木をスルスルスルと登り始めました。
そのときです。
木の上の方でバサバサバサと大きな羽の音がしたかと思うと、黒いかたまりが木の上から落ちて来ました。
お百姓さんと娘がかけよると、それは蛇の死がいでした。
たまごをとられて怒ったワシが、蛇を突き殺したのです。
そこへ昨日の易者が現れて、おびえるお百姓と娘に言いました。
「無事に蛇を退治できて良かったです。
実はわたしは、前にあなたに助けていただいたカエルです。
ご恩返しがしたくて、蛇のことを易者の姿でお教えしました。
けれども蛇は、執念深い生き物です。
死んでもまた新しい蛇に生まれ変わり、いつ娘さんの前に現れるともかぎりません。
そこで蛇をよせつけないおまじないに、毎年三月三日は、お酒に桃の花をうかべて飲んでください」
易者はにっこり笑うと小さなカエルになり、ピョンピョンと小川の方へ跳ねて行きました。
それから悪い物を寄せ付けないおまじないとして、三月三日に桃の花をうかべたお酒を飲むようになったそうです。
おしまい
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