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1月31日の百物語
くわしや
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むかしむかし、ある殿さまの家来に、渡辺民部左衛門という男がいました。
ある日の事、殿さまの娘である姫が急に亡くなったので、姫の弔いにお城の人々はお寺へ向かったのですが、その途中で急に空模様が悪くなりました。
「むっ、あれほどの晴天であったのに」
弔いの葬列を守っていた民部が空を見上げると、突然の雷鳴とともに空から黒い影が落ちてきて姫の棺に取り付いたのです。
「無礼者!」
民部が刀で黒い影を切りつけると、
「ウギャーーー!!」
と、黒い影は叫び声をあげて逃げて行きました。
その黒い影は、人の死体を食べる妖怪『くわしや』だったのです。
「よくぞ、姫をくわしやから守ってくれた。全く、見事な太刀筋よ」
くわしやを退治した民部は、殿さまに大変ほめられました。
それから数年後。
民部は体調を崩したので、草津温泉へ湯治に出かけました。
民部が湯につかっていると、どこからか額に刀傷のある山伏が現れて、民部の隣で湯につかりはじめました。
やがて山伏は民部に顔を向けると、こう言いました。
「わたしは以前、ある高貴な若い娘の死骸をさらってやろうとしたのですが、ある武士に切りつけられてこの様な傷を負ってしまいました。
あの時の武士の顔は、決して忘れはしません」
「・・・なに?」
「その仇を取ってやろうと、ここへやって来たのです」
「すると貴様は、あの時のくわしやか!」
「はい」
山伏の言葉を聞いたとたん、民部は湯船の近くに隠していた刀で山伏を斬りつけました。
しかし山伏はひょいと刀をかわすと、
「あの時の仇、確かに取らせていただきました」
と、民部に言って、そのままどこかへ消えてしまいました。
「逃がしたか。今度あった時は、必ず・・・、うっ、うぅ」
その直後、民部の具合が急に悪くなり、そのまま寝込んで死んでしまったのです。
おしまい
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