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10月18日の百物語

クモ女

二匹の親子グモ

日本語 ・日本語&中国語

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

投稿者 「つれづれ居士」  つれづれ居士

 むかしむかし、村から村へ旅をして歩くお坊さんが小さな村里に入ったとたん、ざーざーと雨が降ってきました。
 そこでお坊さんは、近くのお百姓(ひゃくしょう)の家の戸口に立って頭を下げると言いました。
「この雨で、難儀(なんぎ)しております。どうか一晩、泊めてくださるまいか」
 すると、その家のおかみさんは、気の毒そうに言いました。
「泊めてあげたいのはやまやまですが、あいにく今夜は客があって。でもこの先に、和尚(おしょう)さんのいない古寺があります」
 それを聞いたお坊さんは、再び雨の中を歩き出しました。
「あ、ちょっと待って下さい」
 おかみさんはお坊さんを引き止めると、焼きにぎり飯を一つ差し出しました。

 お坊さんは、教えてもらった古寺にたどり着きました。
 草がおいしげった境内を通って寺の中に入ったお坊さんは、一面クモの巣だらけのひどい荒れ様にびっくりです。
「まあ、雨がしのげるだけましか。さて、日の暮れぬうちに、まずはたきぎを」
 お坊さんはたきぎを見つけると、いろりで燃やしました。
 お坊さんは濡れた衣を脱いで、いろりの火にかざして乾かすと、おかみさんにもらった焼きにぎり飯を思い出しました。
「おお、そうじゃ。飯をいただこう」
 焼きにぎり飯を美味しそうに食べたお坊さんは、そのままゴロリと横になるとグーグーと寝てしまいました。

 それから、どれくらいたった頃でしょう。
 ガタン!
と、突然大きな音がして、お坊さんは目を覚ましました。
「何事だ!?」
 お坊さんはジッと耳をすましましたが、何も聞こえてきません。
「はて、気のせいか?」
 お坊さんは火の消えかけたいろりに気づいて、たきぎを一本取り上げました。
 その時、
 キシッ、キシッ、キシッ、キシッ。
と、本堂の方から板の間を踏んで近づいてくる音がして、破れたしょうじがすーと開きました。
「何者!」
 お坊さんが身構えると、そこに現れたのは灰色の着物にほっそりと身をつつみ、胸に赤ん坊を抱いた女の人でした。
(こんなひどい荒れ寺に、女が住んでおったとは)
 さすがのお坊さんも、目を見張りました。
 女は、いろりの灯りをさける様にうつむいたまま、素足でお坊さんのそばに来てペタリと座りました。
 そして力のない声で、お坊さんに言いました。
「どうか訳は聞かずに、この子を一晩預かってもらえませんか? お願いです」
(訳を聞かずとは、よほど深い理由があるのだろう)
 お坊さんは何も聞かず、その赤ん坊を預かる事にしました。
「ありがとうございます」
 女は礼を言うと、赤ん坊をその場に置いて立ち去りました。
 すると、どうでしょう。
 今まで上を向いて手足をバタバタさせていた赤ん坊がゴロンと寝返りをうち、お坊さんの周りをハイハイしたのです。
 そして何度も何度も、お坊さんの周りをグルグルと回り続けました。
「妙な赤子(あかご)じゃ」
 同じ所をグルグルとはい回る赤ん坊を見ているうちに、お坊さんは首を締め付けられている様な気がしてきました。
 その力は少しずつ強くなっていくようで、不思議に思ったお坊さんが首に手をやろうとしたとたん、
 ギリギリギリ!
と、ひどい力で首を締め付けられたのです。
「なんと!」
 お坊さんが苦しみながら赤ん坊を見てみると、赤ん坊ははい回るのを止めて、じっとこちらの様子をうかがっているではありませんか。
「さては、化け物・・・」
 お坊さんは叫ぼうとしましたが、声が出ません。
 すると次の瞬間、
 バリッ!
と、音を立てて、天井の板の一枚がはずれました。
 すると赤ん坊は何か見えない糸につかまるように、スルスルと天井に開いた穴に向かって登り始めたのです。
「うっ、逃がすかっ」
 お坊さんは苦し紛れに、そばにあったたきぎをつかむと、渾身の力を込めて天井の穴に投げつけました。
「ギャーッ!!」
 ものすごい叫び声があがって、天井裏で何かがバタバタと暴れました。
 お坊さんは、もう一度たきぎを天井裏に投げようとしましたが、ついに力尽きて、その場に倒れてしまいました。

 朝になると、昨日のお百姓のおかみさんが、旦那と一緒に古寺へやって来ました。
「あのお坊さま、無事にいるだろうか?」
「ああ、客も帰った事だし、今夜は家に泊まってもらおう」
 そして夫婦が古寺に上がり込むと、なんとお坊さんがいろりのふちで気を失っているのです。
「お坊さま、お坊さま」
 夫婦にゆり起こされて気がついたお坊さんは、二人に昨日の出来事を話して聞かせました。
 そして旦那とお坊さんは、恐る恐る天井裏をのぞいてみてびっくりです。
 何と天井裏一面に人の骨が散らばっており、その片隅の骨の山の上では、恐ろしく大きなクモの親子らしい物が死んでいたのです。
「そうか、昨日の親子の正体は、化けグモであったか」

 その後、お坊さんは村人に頼まれてその古寺の住職(じゅうしょく)となり、天井裏の骨を手厚くほうむりました。
 そしてお坊さんは、二匹の親子グモの死がいも深々と土に埋めてやり、
「子を思う気持ちは、人間もクモも同じ事。親子とも、成仏せいよ」
と、手を合わせてやったという事です。

おしまい

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