|
|
福娘童話集 > きょうの日本民話 > 4月の日本民話 >恩知らず
4月2日の日本民話
恩知らず
京都府の民話 → 京都府情報
・日本語 ・日本語&中国語
むかしむかし、ある村に大雪が降りました。
買い物で町へ出かけていた男は村に帰る途中、この大雪で道に迷ってしまいました。
「困ったな。完全に迷ってしまったぞ。しかし、この雪の中にとどまっても凍え死ぬだけだ。とにかく歩かないと」
男が仕方なく吹雪の中を歩いていると、ふと目の前に大きな影が現れたのです。
「くっ、熊だ!」
男は逃げようとしましたが、深い雪に足を取られて逃げるに逃げられません。
「もう駄目だ!」
男は死を覚悟して目を閉じましたが、熊は襲って来ません。
男が恐る恐る目を開けてみると、熊は後ろ足でむっくり立ち上がり、器用に前足を動かして、
(こっちへ、こい。こっちへ、こい)
と、手招きをしているのです。
「もしかして、おれをさそっているのか?」
熊が襲ってくる様子はなく、このまま吹雪の中を立っていても仕方がないので、男は熊に誘われるまま熊の後をついて行きました。
すると熊は大木に開いている大きな穴の中に入って行って、穴の中から男に向かって、
(おいで、おいで)
と、また手招きをしました。
「おれを巣穴で、食べるつもりだろうか? ・・・ええい、ここまで来れば、乗りかかった舟だ!」
男は決心すると、熊の巣穴へと入って行きました。
熊の巣穴は意外に広く、そして暖かでした。
熊はすぐに眠ってしまい、襲ってくる様子はありません。
男は熊が巣穴に蓄えている木の実と雪を食べて飢えをしのぐと、熊の背中に添い寝をして暖まりました。
それから四日後、長かった吹雪がようやくやみました。
熊は、まだ眠ったままです。
男は巣穴を出ると、無事に村へと帰って行きました。
村に帰った男は、自分が熊のおかげで助かった事を村人に告げると、仲間の猟師にこう言いました。
「大きくて毛並みの良い熊を知っている。そいつを撃ち殺して、売ったお金を山分けにしよう」
こうして男は恩知らずにも、命を助けてもらった熊を撃ち殺しに行ったのです。
さて、帰って来た男を見つけた熊は、うれしそうに立ち上がると男に、
(おいで、おいで)
と、手招きをしました。
しかし男が猟師を連れて来た事がわかると、熊は急に怖い顔になって男に襲いかかったのです。
油断していた男は熊の攻撃を避ける事が出来ず、そのまま熊に身体を引き裂かれてしまいました。
そしてそれを見て怖くなった猟師は鉄砲を撃つ事も出来ず、あわてて村へと逃げ帰りました。
この話を聞いた村人は、
「たとえ相手が動物でも恩知らずな事をすれば、あの男の様になる」
と、言い伝えたそうです。
おしまい
|
|
|