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2月20日の日本民話
  
  
  
  おぶさりてえ
  岐阜県の民話 → 岐阜県情報
 むかしむかし、八幡(やはた)さまの奥の院にある高い高い杉の木のてっぺんに、バケモノがすんでいました。
   そのバケモノは、毎日ひぐれになると、
  「おぶさりてえー、おぶさりてえー」
  と、さけぴ、木の下をとおる人がいると、木をスルスルとおりてきて、
  「おぶさりてえー、おぶさりてえー」
  と、追いかけてくるのです。
   こんなわけで、夜になるとだれ一人、八幡さまのあたりをとおる者はいませんでした。
   さて、ある晩の事。
   侍(さむらい)が三人あつまって茶のみ話をしていると、一人の侍がいいだしました。
  「どうじゃ。われら三人で碁(ご)をうって、負けたものはバケモノをおぶってくる事にしようではないか」
  「うん、それはおもしろかろう」
  「さんせい」
   そこで三人は、さっそく碁をうちはじめました。
   ところがなんと、負けたのは三人の中で一番こわがりの侍でした。
   弱虫の侍は、しょんぼりと自分の家にかえって、嫁さんに別れのあいさつをしました。
  「これで、お前の顔も見おさめじゃ。わしはもう、生きてはかえれんかもしれん。お前も体に気をつけてくらせよ」
   そう言って、八幡さまへでかけていきました。
   最初の鳥居(とりい)をくぐり、次に二の鳥居(とりい)、三の鳥居と進んでいきましたが、体がブルブルとふるえてしまい、今にも気絶してしまいそうです。
   それをどうにかがまんして、なんとか八幡さまの拝殿(はいでん)までたどりつきました。
   ガラン、ガラン、ガラン
   鈴のひもをひくと、
  「どうぞ八幡さま。ぶじで約束がはたせますように。バケモノをおぶってかえれますように」
  と、両手をあわせながら、いっしんにおがみました。
   さて、おそろしいのはこれからで、奥の院までいかなくてはなりません。
   弱虫の侍は、もう死んだ気で走り出しました。
   奥の院の杉の木の下までくると、高い杉の木のてっぺんを見あげて、思いっきりわめきました。
  「やいバケモノ! おぶさりてえなら、さあ、このおれにおぶされい!」
   すると上の暗やみから、ガリガリッと、つめで木の幹(みき)をひっかきながら、何かが降りてきました。
   そして侍の背中に、ズッシリとおぶさったのです。
   その重たい事といったら、いまにも腰がおれてしまいそうです。
   でも弱虫の侍は、死にものぐるいでふらつく足をふんばり、なんとか家までたどり着きました。
  「そら、ここへ降りろ」
   玄関(げんかん)の土間(どま)に降ろそうとしましたが、バケモノはしっかりとしがみついて、降りようとはしません。
   弱虫の侍はしかたなく、茶の間にあがって、
  「さあ、ここへ降りろ」
  と、いいましたが、ここでも降りてくれません。
   それで今度は奥の座敷に入って、床の間のほうへ背中をむけると、
  「そんなら、お前。ここへ降りろ」
  と、いうと、今度はあっさりと降りてくれました。
   さあ、降ろしたのはいいのですが、弱虫の侍はそのバケモノを見る勇気もなく、そのままとなりの部屋へかけこんで、ふとんを頭からかぶって一晩中、ブルブルとふるえていました。
   さて、あくる朝です。
   嫁さんが座敷のそうじにいって、おどろいた声をあげました。
  「お前さん、お前さん。大変だよ」
   朝になっても、まだふとんの中でブルブルとふるえていた弱虫の侍は、嫁さんに引っ張られるように座敷に連れて行かれました。
  「お前さん、何をふるえながら目をつぶっているんだい。はやくこれを見てごらん」
 嫁さんにいわれて、弱虫の侍がおそるおそる目を開けてみると、昨日おぶってきたバケモノはおらず、そのかわりに大判小判の入った大きなツボが、座敷の真ん中においてあったという事です。
おしまい