
  福娘童話集 > きょうの日本民話 > 5月の日本民話 > ギバ
5月22日の日本民話
  
  
  
  ギバ
  愛知県の民話 → 愛知県情報
 むかしむかし、尾張の国(おわりのくに→愛知県)のある宿場町の河原で、街道(かいどう)ではたらく若い馬子(まご)たちが、自分たちのウマをあつめて、ウマの健康のためにおきゅうをすえていました。
   ウマがあばれないようにクイにたづなをくくりつけると、ウマの腰のあたりにもぐさをうえて、一頭一頭きゅうをすえていました。
   河原には三十頭ばかりのウマがのんびり草を食べながら、順番が来るのを待っています。
   そのうちに、一頭がきゅうに空へかけのぼるようなかっこうをして、はげしくいななきました。
   そして、つながれているクイのまわりをグルグルと回りはじめ、バッタリと倒れてしまったのです。
  「どうしたんだ?」
   馬子たちはおどろいてウマにかけよりましたが、ウマは目をひらいて口をあけたまま死んでいました。
   すると今度は、大木の根もとにつないであったウマが同じようにいななくと、グルグルとまわりをはじめて、バッタリと倒れてしまったのです。
   一度ならず二度までも、目の前で不思議な事がおこりました。
  「こんなことは、はじめてだ。おいらのウマは大丈夫だろうな」
   馬子たちが青い顔をしながら心配していると、またまた川辺で水をのんでいた白いウマが、はげしくいなないてグルグルまわりはじめました。
  「あれ、あのウマもだ!」
   馬子たちはおどろくばかりで、どうすることもできません。
   そこへちょうど、とおりかかった旅の坊さんが、
  「ギバだ! ほれ、ウマのしりの穴からギバがぬけて飛んでいくぞ!」
  と、指をさしながら言ったのです。
  「ギバ? どこにそんなものが飛んでいくんですか? そもそも、ギバとは何ですか?」
   馬子たちは、坊さんにたずねました。
  「ギバというのは、ウマにとりつく魔物のことじゃ。しかし、どんなウマにもとりつくというわけではない。ほれ、見なされ。ギバはな、白いウマばかりにとりつくんじゃよ」
   坊さんのいうとおり倒れたウマは、みんな白いウマばかりです。
   馬子たちは、きゅうをすえるのをやめて、坊さんの話しに耳をかたむけました。
  「ギバはな、玉虫色をした小さなイヌほどのウマで、その背中には頭にかんむりをつけたて美しく着飾った、おひなさまのような娘がのっているのじゃ。そして白いウマを見つけると、どこからともなくかけおりてきて、長いウマの顔に食らいつき、鼻の穴から腹の中へ入っていくのじゃ。ウマの中に入ったギバは、そのまままっすぐ走ってしりの穴からぬけていく。このあいだにウマは苦しみ、グルグルとおなじところをまわって倒れてしまうのじゃ。ギバは人間にはなかなか見えぬが、ウマにはよく見えるらしく、ギバがやってくるとウマは恐ろしくてあばれだすのじゃ」
   馬子たちは真剣な顔で、坊さんの話しをきいていました。
  「でも、人間にはなかなか見えないのはこまりものだな。お坊さま、そのギバとやらにとりつかれねえようにするには、どうすればいいんだ?」
   馬子の一人が、たずねました。
  「お前たちだってよく注意をしていれば、わしのように見えるようになる。だが、見えるようになってもギバは素早いからゆだんはできんぞ。ウマがおどろいてなきだしたら、自分の着物でもかまわないから、すぐに広げてウマの頭にかぶせるんじゃ。美濃(みの→岐阜県の南部)の山の中の馬子たちは、お前たちのように、着ている着物をおびやひもでとめてはいない。すぐにぬげるように、からだにひっかけているだけだ。それでも間に合わなくて、ギバが鼻の中へ入ってしまったら、ウマの背中にすばやくハリをうつ。そうすればギバはそれ以上進めずに、入ってきた鼻の穴から外へでてくるんじゃ。美濃の山奥にはよく出たが、このあたりにも出るようになったんじゃな。まあ一番よい方法は、白毛のウマをかわないことだ。それじゃあ、気をつけてな」
   坊さんはそう言うと、どこかへ去っていきました。
   なんとも不思議な話しですが、目の前に三頭のウマが倒れているのですから、信じないわけにはいきません。
   このときから、東海道の宿場にいる馬子たちは、上着をおびなしで着るようになりました。
 ギバの正体は、白いりっぱなウマにのった侍(さむらい)に両親をけり殺された、まずしいかじ屋の娘の生まれかわりだという事です。
おしまい