６年生の日本民話



米問屋のお礼
宮崎県(みやざきけん)の民話

　むかしむかし、ある海辺に、おじいさんとおばあさんと息子と嫁(よめ)とが暮(く)らしていました。
　おじいさんと息子は沖(おき)に出て魚をとり、おばあさんと嫁(よめ)は機(はた)を織(お)る毎日でした。
　ある日の事、おじいさんと息子が沖(おき)へ漁に出ていると、急に空模様(そらもよう)があやしくなってきました。
「こりゃ、大雨になるぞ」
「お父っつぁん、あの島へ行こう」
　二人は大いそぎで、近くの島へ逃(に)げました。
　だんだん雨風が強まるなか、やっと舟(ふね)をおかに押(お)し上げて、洞穴(ほらあな)にこもり、大荒(おおあ)れに荒(あ)れる海を見ながら、二人はジッと夜を明かしました。
　次の朝、大雨がやんだので、二人は舟(ふね)を出して魚とりをはじめました。
　アミを海に入れると、とても重い手ごたえがあります。
　二人がなんとかアミを引き上げてみると、アミの中には二十五、六歳(さい)の立派(りっぱ)な着物を着た男がかかっていたのです。
「お父っつぁん、こりゃあ」
「うむ、ゆうべの大雨に流されてきたお人じゃろう。かわいそうなことだ。もう死んでいる」
　二人は島に穴(あな)をほると、その男をていねいにうめてやりました。
「今日は、ひきあげよう。おばあさんに頼(たの)まれていた物を買ってから帰ろう」
　二人は大きな町がある港へ、舟(ふね)をこぎ寄せました。
　おみそやお米を買おうと、お米屋へ行ってみると、そこの旦那(だんな)が声をかけてきました。
「もし、あなたたちは、昨夜の大雨の時、どうしていましたか？」
「はい、わしたちは危(あや)ういところで島に逃(のが)れられました」
「そうでしたか、それはよろしゅうございました。ところでここへ来る途中(とちゅう)、千石船(せんごくぶね→江戸時代(えどじだい)、米を千石ほど積める大形の和船)を見かけませんでしたか？」
「いいや、見なかったですな。ですが今日、わしらのアミに若(わか)い男の死骸(しがい)がかかって、島にうめてきました」
「死骸(しがい)ですと！」
「なにか、心当りでもありなさるのか？」
「実は、息子が大阪(おおさか)に千石船で米を積んで出て行ったのですが、そこへあの大雨。心配しているところです」
「そうじゃったか」
「ごめんどうをおかけしますが、わたしをその島へ連れて行ってもらえますまいか？」
　二人は旦那(だんな)を乗せて、その島へ戻(もど)りました。
　うめた死骸(しがい)をほり返してみると、旦那(だんな)の顔から血の気が引きました。
「むっ、息子です」
　二人は死骸(しがい)を乗せて再び港へ引き返し、立派(りっぱ)な葬式(そうしき)にも立ちあいました。
「あなたたちには、すっかりお世話になりました。わたしの心からのお礼を港に用意しました。どうか受け取って下さい」
「いや、お礼なんぞいりません」
「いいえ、あなたたちは息子をていねいにうめて下さっただけでなく、持っていたお金も、そっくりそのままそえて下さっていた。その正直さに感銘(かんめい→感動)しました。どうぞ受け取ってやって下さい」
　あまりにも旦那(だんな)が言うので受け取ることにしたのですが、旦那(だんな)につれられて港へ行ってビックリです。
　なんと旦那(だんな)が用意したお礼はとは、千石船で、しかも米千石が積んであったのです。
　その上、死んだ息子がもっていた百両(ひゃくりょう→七百万円ほど)以上もの金もくれたのです。
　二人はたちまち大金持ちになり、嫁(よめ)とおばあさんの待っている家へと帰っていきました。

おしまい