6年生の世界昔話
イラスト myi ブログ sorairoiro
メスウシとライオン
インドの昔話 → インドのせつめい
むかしむかしの話しです。
一頭のメスウシが川に水を飲みにいったとき、ついでに川のほとりの青い草をいっぱい食べました。
さて帰ろうとすると、不運なことに、腹(はら)ぺこのライオンにあってしまいました。
「おい、メスウシ、かくごしろ。おまえを食べてしまうぞ!」
ライオンは、すぐにとびかかりそうないきおいです。
メスウシは、あとずさりしましたが、でも、気をとりなおして考えました。
(どうせ、いつかは死ぬのです。それなら、わたしをほしがっているライオンに、わたしの体をやって死ぬのが、りっぱな死にかたかもしれない)
メスウシは、ライオンにいいました。
「どうぞ、わたしを食べてください。でも、ひとつおねがいがあるのです」
「なんだ?」
「おなかをすかせている子ウシが、わたしの帰りをまっています。
どうかわたしに、おっぱいをやりにいかせてください。すぐにもどってきますから」
「だめだ、帰ってこないにきまっている!」
「帰ってきます。約束はまもります。いま子ウシに飲ませなければ、わたしのおっぱいは、むだになってしまいます。何かの役にたつということは、とてもだいじなことでしょう?」
「・・・ふむ。じゃあ、いってこい。おれはここでまっている」
ライオンは、しぶしぶながらも、しょうちしました。
メスウシは、いそいで家へ帰ると、子ウシをよびました。
「さあ、おいでぼうや。わたしのおっぱいをたっぷりとお飲み」
ところが、りこうな子ウシは、お母さんのようすがいつもとちがうことに気がつきました。
「お母さん、何か心配ごとがあるんでしょう? はなしてよ。はなしてくれなければ、ぼく、おっぱいを飲まないよ」
子ウシがあまりにしんけんなので、メスウシはとうとう、本当のことをはなしました。
「ね、わかったでしょ。いい子だから、はやく飲んでね。お母さんは、ライオンとかたく約束したのだもの」
すると子ウシは、なき出しそうな顔でお母さんを見あげました。
「お母さん。ぼくもお母さんといっしょにいく。お母さんが一人でライオンのところへいくと思ったら、ぼくかなしくて、おっぱいを飲むことなんかできないよ」
メスウシは、子ウシをだきしめました。
「お母さん」
子ウシは、いいました。
「この世の中で何かの役にたつのは、いいことだっていったでしょう。お母さんとぼくを食べれば、ライオンもお腹(なか)が一杯(いっぱい)になって、しばらくは他の動物を食べたりしないよ」
「でも、おまえまでが食べられるなんて・・・」
「いやだ! お母さんといっしょにいく!」
子ウシは、けっしてお母さんのそばをはなれようとはしません。
しかたなく、メスウシは子ウシをつれてライオンのところへ急ぎました。
「ライオンさん、約束どおり帰ってきました。
子ウシもいっしょです。
さあ、わたしたちを食ベてください。
あなたはおなかがペコペコでしょうが、あたしたちを食べれば、しばらくは他の動物を食べなくてもいいはず。
自分の体をささげて、ほかの動物を助けるのは、たいへんだいじなことですから」
ライオンは、メスウシの話しをジッと聞いていました。
その目には、なみだが浮(う)かんでいます。
「さあ、ライオンさん、どうぞ」
「ぼくもどうぞ」
ウシの親子はそういうと、しずかに目をつむりました。
するととつぜん、ライオンはお腹(なか)を押(お)さえると、ウシの親子にいいました。
「あたっ、あいたた! 急にお腹(なか)が痛(いた)くなってきた。これでは、何も食べることは出来ない。ざんねん、ざんねん」
そしてライオンは、そのまま帰って行きました。
おしまい
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