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10月17日の世界の昔話
塩のように好き
スペインの昔話 → 国情報
むかしむかし、ある国の王さまが旅に出るとき、三人の娘にたずねました。
「王女たちよ。おみやげは何がいいかね?」
「私は、絹(きぬ)のドレスがほしいですわ」
「私は真珠(しんじゅ)の首かざりをお願いします。おとうさま」
一番上の王女と二番目の王女は、そう言いました。
そして最後に、末の王女が言いました。
「私は魔法のほら穴のそばに立つ、木の枝を一つおって来てくださるように、お願いいたします」
魔法のほら穴のそばに立つ木の枝は、魔法の杖(つえ)になるのです。
王さまは旅に出かけ、何日かたつと約束どおり、三人の娘におみやげを持って帰ってきました。
「うれしいかね、お前はわたしがどのくらい好きか、言ってごらん」
「私の命と同じくらい好きですわ。おとうさま」
「私の宝物より、もっと好きですわ。おとうさま」
一番上の王女と二番目の王女は、そう答えました。
末の王女は、魔法の木の枝をもらって言いました。
「塩と同じくらい、好きですわ」
「なに、塩だと! このわしを塩と同じくらいしか好きでないと言うのだな。そんな娘はとっとと出て行け!」
王さまに追い出された末の王女は、泣きながら魔法の木の枝を持って、森をトボトボ歩いて行きました。
すると、むこうからヒツジ飼い(→詳細)の娘が来ました。
王女は、涙をふきながら言いました。
「娘さん。あなたの着ている毛皮と私のドレスをとりかえてくださいな。私はお城を追い出され、自分の力で生きていかなくてはならないの。ドレスはいらないの」
ヒツジ飼いの娘はおどろきましたが、王女があまりたのむので、自分のボロボロのシャツとつぎはぎだらけのスカート、それにすりきれた汚ない毛皮をあげました。
王女はそれを着ると、また歩き出しました。
そして途中で、馬車(ばしゃ→詳細)に乗る人たちを道案内しながら、となりの国へ行きました。
王女は、となりの国のお城で働くことにしました。
となりの国の王さまはまだ若く、これからお妃さまをきめようと、お城でパーティーを開くことにしました。
王女はそのことを知ると、王さまの近くへ行き、わざとぶつかりました。
「あいた! これ、気をつけなさい。毛皮の娘よ」
「ごめんなさい」
王女は顔を見せないようにして、あやまりました。
そしてお城をぬけ出し、自分の小さなうす暗い部屋にかけこんで、ボロボロの毛皮をぬぐと、
「うす桃色の絹のドレスと、二頭立ての馬車がほしいの」
と、言いながら、魔法の木の枝をふりました。
するとたちまち、王女はうす桃色のドレスを着ていました。
そして外には、白い二頭のウマと、馬車が待っていました。
王女は馬車に乗りお城へもどると、広間へ行きました。
若い王さまは王女があまりにもかわいらしいので、ダンスをもうしこみました。
羽のように軽いおどり、花のようにやさしい笑顔、王さまは、この人こそきさきにふさわしい人だと思いました。
「あなたは、どこの国の王女さまですか?」
「私は、毛皮の国の王女です」
王女はそう答えて、帰ろうとしました。
王さまはあわてて指輪をおくり、明日の晩も必ず来てくれるようにと言いました。
次の夜には、王女は青いラシャのドレスを着て、四頭立ての馬車で出かけました。
王さまは首飾りをおくり、また、明日の晩も来てくれるようにたのみました。
その次の夜には、王女は黒いドレスで、六頭立ての馬車でお城へ行きました。
王さまは、王女とダンスをしながら、
「今夜で、おきさきを決めるバーティーはおしまいです。明日、結婚式をあげましょう」
と、いったのです。
けれど、王女はニコニコ笑うだけでした。
そして魔法の木の枝をふり、風のように六頭立ての馬車を走らせて、どこかへ帰って行くふりをしました。
おきさきを決めるバーティーが終わった翌日から、王さまは寝込んでしまいました。
召使いたちは、王さまの体を心配しました。
毛皮を着た王女は、台所の料理長にたのみました。
「私にケーキを作らせてください。王さまが一口食べられたら、きっとお元気になられます」
料理長は、
「一度だけだぞ」
と、ケーキの材料をそろえてくれました。
王女は手早くケーキを作り、王さまのもとへとどけてもらいました。
王さまは、ベッドの上で王女の作ったケーキにフォークをさしました。
すると、ケーキの中から毛皮の国の王女にあげた指輪が、コロリと出てきたのです。
王さまは目をかがやかせて、召使いに命じました。
「このケーキを作った物に、もう一度ケーキを作らせよ」
王女は、今度のケーキには首飾りをいれておきました。
そして、それを見つけた王さまがいいました。
「やはり・・・。このケーキを作った者を、ここへつれてまいれ!」
「いや、しかし。王さま、このケーキを作ったのは、きたない毛皮娘です」
召使いがボソボソ答えると、王さまは思い出しました。
「バーティーの最初の晩、ぶつかったボロボロの毛皮を着た娘は。・・・そうだったのか! それでもよい。はやくここへ」
と、王さまが言ったとき、扉が開きました。
そこに立っていたのは、まっ白なドレスを着た美しい王女です。
王さまは涙を流して喜び、そしていいました。
「結婚式だ! すぐに用意しろ!」
お城の広間で、盛大(せいだい)な結婚披露バーティーが行われました。
いろいろな国の王さまたちが、結婚式によばれました。
その中には、王女のお父さんもいましたが、まさか自分の娘の結婚式とは、知らずにやってきたのです。
いろいろな国の王さまたちは、ずらりと並んだごちそうを食べ始めました。
王女のお父さんも、ごちそうを口にはこびましたが、そのとたんに変な顔をしました。
「・・・・・・」
それは、出された料理に、全然味がしないからです。
それは王女が、
「あの王さまのお料理には、塩を絶対にいれないでください」
と、料理長にたのんだからです。
そのうちに、王女のお父さんがボロボロと涙を流しながら、となりの席の王さまに話し出しました。
「末の王女は、私のことを塩と同じくらい好きと言い、私は怒りました。でも、今日はじめて、こんなに美しいお料理も、塩がないだけで味のない、さびしくてつまらないものになるということがわかりました。王女は、どんなに私を愛していたかがよくわかりました。なのに私は、王女を追い出したのです。今ごろどうしているのか。かわいそうなことをしました」
そのとき、王女が近づいて来て、おとうさまのほっぺたにキスをしました。
「おとうさま、わかっていただけてうれしいです。私はこのとおり、おきさきになることが出来て幸せですわ」
そして、王女は料理長に、
「おとうさまのために、わたしの作った料理を持ってきてちょうだい」
と、ニッコリ笑ってたのみました。
その料理は塩を上手に使った、とてもおいしい料理だったそうです。
おしまい