ふくむすめどうわしゅう(福娘童話集) > がいこくご > にほんむかしばなし
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にがつ の さくら
(にほんのむかしばなし)(えひめけんのみんわ)
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むかしむかし、さくらだに と いう ところ に、おじいさん が まご の わかもの と いっしょ に すんでいました。
この さくらだに には、むかし から おおきな さくら の き が あります。
おじいさん は こども の ころ から さくら の き と ともだち で、はる が きて まんかい の はな を さかせると、おじいさん は はたけしごと も しないで さくら を うっとり と ながめていました。
そして はなびら が ちる と、おじいさん は その はなびら を いちまい いちまい あつめて き の した に うめました。
「さくらや。ことし も たのしませてくれて、ありがとうよ」
さて、その おじいさん も やがて とし を とり、とうとう うごけなく なりました。
にがつ の ある さむい ひ、おじいさん は きたかぜ の おと を ききながら、ぽつん と わかもの に いいました。
「わし は いままで いきてきて、ほんとう に しあわせ じゃった。だが、しぬまえ に もういちど、あの さくら の はな を みたい ものじゃ」
「そんな こと を いったって、いま は にがつだ。いくら なんでも・・・」
わかもの は そう いいかけて、くち を つぐみました。
おじいさん が め を つむり、なみだ を こぼして いるのです。
きっと、さくら の はな の すがた を おもいうかべて いるのでしょう。
「おじいさん、まっていろよ」
わかもの は じっと して いられず に、そと へ とびだしました。
そして つめたい きたかぜ の なか を はしって、さくら の き の した に いきました。
きょう は とくべつ に さむい ひ で、さくら の き も こごえる よう に ほそい えださき を ふるわせています。
わかもの は さくら に て を あわせる と、たのみました。
「さくら の き よ。どうか、おねがいです。はな を さかせてください。
おじいさん が し に そう なんです。
おじいさん が いきている あいだ に、もういちど はな を みせて やりたいんです」
わかもの は なんじも なんども いのりつづけて、よる が きて も き の した を うごこうとは しませんでした。
やがて よ が あけて、あさ が きました。
さくら の き の した で いのりつづけていた わかもの は、あまり の さむさ で き を うしなっていました が、きゅう に あたたかさ を かんじて め を さましました。
「どうして、こんな に あたたかいんだ? それに、あまい はな の かおり が するぞ」
わかもの は ゆっくり と かお を あげて、さくら の き を みあげました。
「あっ!」
なんと ふしぎなこと に、さくら の き には えだいっぱい に はな が さいて いたのです。
にがつ の こんなに さむい ひ に、しかも たった ひとばん で さいたのです。
「ありがとうございます!」
わかもの は さくら の き に れい を いう と、おじいさん の まつ いえ へ はしって かえりました。
「おじいさん! おじいさん! わたし が おんぶ する から、いっしょ に きて ください」
「なんじゃ? どうしたんじゃ?」
「いいから、でかけますよ」
わかもの は おじいさん を せおう と、さくらだに へと むかいました。
やがて、さくら の き が だんだん ちかづいてくると、
「おおっ・・・」
おじいさん は おどろいて ことば も だせず に、ただ なみだ を ぽろぽろ と こぼしました。
「よかったですね。おじいさん」
さくら の はな は あさひ を あびて、キラキラ と ひかりかがやいて います。
「これほど みごと な さくら の はな を、わし は いままで みた こと が ない。わし は、ほんとう に しあわせもの じゃ」
そう つぶやく おじいさん に、わかもの も なみだ を こぼしながら うなづきました。
それから まもなく、おじいさん は なくなりましたが、
それから も さくらだに の この さくら の き は、まいとし にがつ じゅうろくにち に なると みごとな はな を さかせたそうです。
おしまい
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