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2月7日の日本の昔話
徳政じゃ
欠債毋使還
にほんご(日语) ・ちゅうごくご(中文) ・日语&中文
福妹日本童話集 (臺灣客語.海陸腔) 翻譯:鄧文政(ten33 vun55 zhin11)
むかしむかし、京の町に、大きな宿(やど)屋がありました。
頭擺頭擺,在京城街路有當多旅社。
いつも旅の人が大勢泊まっていて、とても賑やかでした。
常透戴當多人,非常鬧熱。
ところでこの宿屋の亭主は、いったいどこで耳に入れたのか、近いうちに徳政令(とくせいれい→借金を帳消しにするおふれ)のある事がわかったので、心の中でニヤリと笑いました。
毋過,該頭家毋知在那聽來个,最近有隻『欠債毋使還』个法令,心肝肚在該偷笑。
(こいつで、たんまりと儲けてやろう)
(用這法令做得賺當多錢。)
亭主は、一部屋一部屋回り歩いて、泊まり客の持ち物を見せてもらいました。
頭家一間一行過間房間,喊人客打開包袱分佢看。講:
「ほう、このわきざし(→刀)は、けっこうなお品で。じっくりと拝見(はいけん)いたしとうございますが、しばらくお貸しくださるまいか」
「哦,這支短刀盡靚,愛慢慢欣賞,借𠊎一駁仔好無?」
「この大きな包は、何でござりましょう。ほほう、立派な反物(たんもの→着物の生地)がこんなにもドッサリ。実は、娘や女房に買うてやりたいと存じますので、ちょいと拝借を」
「這隻大包袱張恁多麼个東西,呵呵!恁靚个布料有恁多。事實𠊎妹仔、𠊎餔娘堵堵好想愛買,借一兜仔。」
と、いう具合に、客の持ち物を次から次と借りていきました。
因為這原因摎人客个東西一擺借過一擺。
客たちは、亭主の企みなどは夢にも知りませんので、
該兜人客發夢又毋知頭家个陰謀。
「お役に立てば、お安い事」
「有效較要緊,小事情。」
「さあさあ、どうぞ」
「請」
と、気楽に何でも貸してくれました。
輕輕鬆鬆,麼个東西就借分佢。
こうして、どの部屋からもめぼしい物を借り回ったおかげで、主人の部屋には客の品が山の様に貯まりました。
就恁樣,逐間去借貴重个東西,借到滿屋間,堆到像山恁高。
さて、二、三日すると、思った通り、おかみのおふれが出ました。
過了二、三日後,像佢想个恁樣,官廳个告示貼出來了。
役人がほら貝を吹きたて、鐘を打ち鳴らして、
官差歕海螺角、鳴鐘。
「徳政じゃあー。徳政じゃ」
「欠債毋使還!欠債毋使還!」
と、町をわめき歩きます。
街路緊行緊噦,講:
町のあちこちに、徳政の立礼(たてふだ)が立ちました。
街路滿哪仔貼欠債毋使還个告示。
そこで宿の亭主はしてやったりと、広間に客を集めてこう言いました。
所以旅社个頭家摎人客喊到廳下講:
「さてさて、困った事になりもうした。
「阿姆哀,無葛煞个事情,
この徳政と申すは、かたじけなくも、おかみからのおふれでございます。
雖講這欠債毋使還,官廳个告示係恁樣寫。
このおふれのおもむきは、天下の貸し借りをなくし、銭・金・品物などによらず、借りた物はみな、借り主にくだされます。
告示个意思愛摎所有个借貸取消,錢、金、物品全部借來个東西變借个人个毋使還了。
さようなわけで、皆さまからお借りした品々は、ただいまからわたくしの物になったわけでございます」
所以你兜借分𠊎个所有東西,這下變𠊎个了。」
と、いかにも、もっともらしく言いました。
講到像正經樣。
さあ、これを聞いた客はびっくりです。
該兜人客聽著,著下驚。
互いに目を見合わせて途方に暮れ、中には泣き出す者もいて大変な騒ぎです。
你看𠊎𠊎看你,無結無煞,當中有人分佢嚇到噭出來,閙熱煎煎。
けれど、
毋過,
「返して欲しい!」
「東西還𠊎!」
と、どんなに頼んでも、亭主は、
毋管大家仰般拜託。旅社个頭家講:
「なにぶん、このおふれは、わたくしかっての物ではござりませぬ。天下のおふれ、おかみからのご命令。借りた物はみな、わたくしの物でございます」
「無奈何,這告示毋係𠊎自家儘採貼个,官廳个命令,借來个東西全部變𠊎个了。」
と、いっこうに聞き入れません。
完全聽毋入耳。
こうなっては客たちも、大事な物を亭主に貸した事をなげくばかりです。
所以該兜人客對貴重个東西分頭借去个事情只有怨嘆定定。
ところが客の中に、頭の切れる男かおりました。
其中有一儕頭腦較好个男仔人,
男はつかつかと亭主の前に進み出ると、こう言いました。
盡無客氣行出去頭家面頭前講:
「なるほど、天下のおふれとあれば、そむく事はなりますまい。そちらヘお貸しもうした物は、どうぞ、お受け取り下さる様に」
「有影哦,既然有官廳告示,做毋得違反。該片有你想愛借个東西,毋使客氣你做你拿去。」
この言葉に他の客たちがあきれていると、男は続けて、
其他个人客聽到這嗄呆忒,男仔人續等講:
「ただ、こうしたおふれが出まして、あなたさまには、まことにお気の毒ではござります。
だが、それもいたしかたのない事。
「毋過,照這告示實行,對你有盡大不利,該也係非常無辦法个事情。
わたくしどもはこうして、あなたさまのお宿をお借りしましたが、思いもかけず、このたびの徳政。
𠊎兜恁堵好在欠債毋使還期間戴這旅社,
今さらこの家をお返しする事も出来ぬ事になりました。
這下乜無辦法還你了,
どうぞ、妻子(さいし→おくさんと子ども)、召使い一同をお連れになって、今すぐこの家からお立ち退き下さる様」
請你渡等若餔娘、子女、小使仔這下黏時共下離開這間屋。」
と、おごそかな声で言いました。
用盡嚴肅个聲哨講:
さあ、今度は亭主の方がびっくりです。
這下換頭家著驚。
「何だと! この宿は、むかしからわしらの持ち物。今さら人手に渡す事はならぬ。ならぬわい!」
と、まっ赤になって怒鳴ったのです。
「講麼个啊!這旅社頭擺頭擺盡久以前直直到這下就傳下來个,今晡日做毋讓度分別人,做毋得哪!」
閼到面紅漬炸大聲講。
「いやいや。ご亭主。あなたさまが先ほど言われた通り、おふれはおふれ。この家はお借りもうした、わたくしどもの物です」
「毋使恁大聲,頭家。照你頭下講个,告示就係告示。這屋分𠊎兜借來戴了係𠊎兜个東西了。」
「そ、そんな無茶な」
「恁無理个事情。」
宿の亭主は怒って、奉行所(ぶぎょうしょ→今でいう裁判所)に訴え出ました。
旅社个頭家當閼,走到官廳告佢兜,
すると、お奉行(ぶぎょう→裁判官)は真面目くさった顔で、宿の亭主に、
奉行老爺神投投摎頭家
「お前の言い分は通らぬぞ。借りた物は、借り主にくださるが徳政。お前は、妻子、召使い一同を連れて、家から立ち退くがよい」と、言い渡しました。
講:「你个辯解講毋通,借出去个東西就係別人个,毋使還了,你還係渡等若餔娘摎子女、小使仔共下離開這屋下正著。」
宿屋を借りていたお客たちは、荷物こそは宿屋の亭主に取られましたが、宿屋を手に入れて幸せに暮らす事が出来ました。
借旅社戴个人客雖然包袱分旅社个頭家拿去了,毋過得著旅社了,逐日過著當幸福快樂。
おしまい
煞了
註:日本刀とは、日本固有の方法で鍛えたかたなのことで、その優秀さから、海外にも輸出されるほどでした。
註 : 日本刀係用日本老頭擺斯有个方法鍛鍊,因為優秀个人性能,早就賣到外國去。
日本刀は、武士の魂といわれるほど、武士にとっては大切なものでした。
日本刀做得講係武士个靈魂,對武士係當重要。
小話に出てくる刀とは、武士が脇差にさしている、大小の二本の刀の内、大きいほうの大刀の事です。
出現在小故事肚个刀仔係武士腰項佩帶个兩支長、短刀之中个較大該支。
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