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2月9日の日本の昔話

もち屋の禅問答

もち屋の禅問答

にほんご(日语)  ・ちゅうごくご(中文) ・日语&中文

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投稿者 「ちょこもち」  ちょこもち

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制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】

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制作 : 妖精が導くおやすみ朗読チャンネル

♪音声配信(html5)
音声 スタヂオせんむ

 むかしむかし、あるところに、とても大きなお寺がありました。
 寺はとても立派ですが、困った事に、この寺の和尚(おしょう)ときたら、勉強が嫌いな上に物知らずです。

 さて、ある日の事、一人の旅の坊さんがやって来て、
「それがし、禅問答(ぜんもんどう)をいたそうとぞんじてまかりこしたが、寺の和尚どのはおられるかな」
と、ちょうど玄関の掃除をしていた、この寺の和尚さんに尋ねたのです。
 さあ問答と聞いて、和尚さんはビックリしました。
 相手は、仁王(におう)さまの様な大男。
 しかも、あちこちの寺を回り歩いては問答を仕掛け、一度も負けた事はござらぬという顔です。
(こりゃあ、どえらい事になったわい。一体どうしたもんじゃろう。・・・そうじゃ。もち屋の六助(ろくすけ)がよい)
と、思いつき、ともかく旅の僧を本堂に案内して、
「和尚さまは、ただいま、お留守にございますが、近くにまいっておられますので、さっそく呼んでまいりましょう」
 言い終わると転げる様に、もち屋の六助の家へ行きました。
「六助どの。たった今、これこれ、しかじか。ぜひわしの身代わりになって、問答をやって下され」
と、両手を合わせて頼みました。
 日頃から信心(しんじん→神仏を思う気持ち)深い、もち屋の六助は、
「へえ、和尚さまのお為なら」
と、引き受けました。

 六助は和尚さんの部屋で着替えると、しずしずと本堂に入って旅の僧と向かい合いました。
 和尚さんが隠れて様子を見ていると、さっそく、もち屋と旅の僧の問答が始まりました。
「白扇(はくせん)さかしまにかかる東海(とうかい)の天」
 旅の坊さんが、口を開きました。
 雪をいただいた富士山(ふじさん)が、白い扇(おおぎ)を逆さまにかけた様に海にうつっているが、そのながめはいかに?
と、聞いたのですが、訳の分からないもち屋の六助は、うんともすんとも言いません。
 すると、旅の僧が、
「和尚どのは、無言(むごん)の行(ぎょう)でおわすか?」
と、聞きました。
「・・・・・・」
 六助は、それにも答えません。
 二人の間で、無言の行が始まりました。
 しばらくして旅の僧が右手を上げて、人差し指と親指とで小さな輪を作れば、六助はそれを見て両手を上げて大きな輪(わ)を作りました。
 すると旅の僧は、おそれいったという様子で丁寧に頭を下げます。
 そして今度は、人差し指を一本突き出して見せました。
 六助は素早く、五本の指をパッと開きます。
 旅の僧は、また丁寧に頭を下げました。
 今度は三本の指を、高く差し上げました。
 するとそれを見た六助は、アカンベエをしたのです。
 それを見た旅の僧は、あわてて両手をついて、
「ははーっ」
と、頭をたたみにすりつけると、逃げる様にして寺から出て行きました。
 和尚さんは、ホッと胸をなで下ろしました。
 それにしても今の問答は、何とも訳が分かりません。
 そこで和尚は、小僧を呼んで、
「お前、今の僧が泊まっておる宿(やど)ヘ行って、訳を聞いて来い」
と、言いつけました。

 宿にやって来た寺の小僧さんを前にして、旅の僧は冷や汗を拭きながら言いました。
「いやはや、わしも天下の寺でらを歩いて問答をいたしたが、今日ほど、えらいめおうた事はない。
 まずわしが、この様に輪を作って、
『太陽は、いかに?』
と、問いかけたのじゃ。
 すると和尚どのは、
『世界を照らす!』
と、大きな輪を作って見せて下された。
 次に、
『仏法は、いかに?』
と、人差し指を差し出すと、パッと五本の指を出されて、
『五界を照らす!』
と、答えなさる。
 負けてはならじと、三本の指を出して、
『三仏身(さんぶつしん)は、これいかに?』
と、問いもうした。
 すると和尚どのは、『目の下にあり』と、答えなされたのじゃ」
 そこまで言うと旅の僧は、しみじみと小僧さんの顔を見て、
「お前さんはまだ年が若いで知るまいが、
 三仏身とは、すなわち法身(ほっしん)・報身(ほうしん)・応身(おうしん)のご三体で、ほっしんとは宇宙の法理であって、光明かがやく仏さま。
 ほうしんとは、世のもろもろの悪を清め、われわれ人間はじめ全ての生物をお救いなさる阿弥陀如来(あみだにょらい)さま。
 おうしんとは、ときに応じて、われわれを導く為に現れなさるお方、いわばお釈迦(しゃか)さまじゃ。
 このもったいないお三方が、和尚どのの目下にあるとは、ああ、なんと、なんと」
 旅の僧は涙ぐんで、小僧さんの前に手をつくと、
「まことに、まことに、あの様なお方にお目にかかるばかりか、問答などをいたしまして、いやはや、面目(めんもく)しだいもございませぬ」
と、わびるように言いました。
 小僧さんは、
(ヒェー! あのもち屋の六助さんが)
と、ビックリして寺ヘ帰って来ました。
 すると、これはまたどうした事か、六助さんは和尚さんを前にしてカンカンに怒っています。
 小僧は六助さんの前に手をついて、ていねいに、
「もし、もし。六助さま。一体、どうなさいました?」
と、尋ねると、もち屋の六助は、
「なさいましたも、クソも、ないもんだ。えーい、わしゃ、この年まで色んな人におうてきたが、今日の坊主ほど、ずうずうしい奴におうた事はないわい」
「・・・?」
「あのクソ坊主め。手真似で小さな輪を作って、
『お前のもちは、これくらいか?』
と、聞きおった。
 わしは腹が立って、こんちくしょうとばかり両手で、でっかい奴を作って見せたわい。
 すると今度は、人差し指を差し出して、
『それはいくらか?』
と、聞く。
 わしが、
『五厘じゃ!』
と、五本の指を出せば、坊主め、三本の指を出しおって、
『三厘にまけろ』
と、ぬかしおった。
 あんまり腹が立ったもんで、わしゃ、アカンベエをしてやったわい」
と、言ったのです。

おしまい

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