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1月28日の小話
泳ぎの名人
ある時、江戸の大川(おおかわ)の橋を一人の男が通りかかりました。
男がふと川を見ると、人が水面(すいめん)に浮かんで川下へと動いているのが見えました。
不思議に思ったこの男は、さっそく近くの茶店の主人に尋ねました。
「ついいましがた大川で、うつむけになって身動き一つせずに遠方まで泳いで行った人を見ましたが、どうやればあの様に上手に泳げるものですかのう。あれは、よほど泳ぎの名人と見ましたが、一体、何というお方じゃろう。わしは泳ぎが下手なもんで、ぜひとも泳ぎを教えて欲しいものじゃ」
すると茶店の主人はあきれた顔をして、こう答えました。
「ああ、おおかたそれは、土佐衛門(どざえもん)でございましょう」
「おお、土左衛門と申すお方ですか。して、住まいはどこですかな? すぐにでも、教えをこいたいものだ」
茶店の主人は困った顔で、
「住まいは、あの世です」
※ 江戸時代の力士であった成瀬土左衛門(なるせどざえもん)の、ぷっくりと太った体つきが、おぼれて死んだ水ぶくれの姿にそっくりだったので、おぼれ死んだ人の事を土左衛門と呼ぶようになったそうです。
♪ちゃんちゃん
(おしまい)
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