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3月27日の小話
食わず逃げ
むかしむかし、田舎者の男が一人で江戸見物にやって来ました。
長い旅で疲れた男は、うまいまんじゅうが食べたくなって一軒のまんじゅう屋へ入りました。
「これはお客さま。いらっしゃいませ。今日はどれを差し上げましょうか?」
まんじゅうやの主人がニコニコしながら言うと、田舎者の男は疑り深そうな目で言いました。
「おらは、遠い田舎からやって来た。
人に聞くと、江戸は田舎者を簡単にだますそうだ。
このまんじゅうは本当にうまいのか、教えてくれんか?」
「はあ、うまいか、うまくないかは、一つ召し上がってくださればわかりますよ」
「いや、そんな事を言うて、おらが食ったあとで、まずくても銭を取るつもりだろうて」
それを聞いた主人は、
(やれやれ、やっかいな客が来た)
と、思いながらも、にっこり笑うと店のまんじゅうを一つ口に入れました。
「ああ、うまい、うまい」
「そんなに、うめえか?」
「はい、うまいですとも。さあ、どうぞ召し上がってくだされ」
「いいや、お前が一つ食ったぐらいでは、当てにならん。もう一つ食ってくれ」
「これは、何と疑い深いお方じゃ。それなら、もう一つ食べてみましょう」
主人はもう一つ、パクリと食べて見せました。
「ああ、うまい。本当にうまいまんじゅうだ」
でも男は、まだ疑っています。
「うーん、おらにはまだ信じられん。もう少し食べてくれ」
「お振る舞いなら、いくらでも食べてみせますぞ」
「お振る舞い? よく分からんが、もっと食べてくれ」
「はい。それでは」
主人は次々とまんじゅうを食べて、とうとう一箱を空っぽにしてしまいました。
「さあ、全部食べてしまいました。では、まんじゅう代を払って下され」
「何! お前が食ったまんじゅうの銭など、おらは知らんぞ!」
「なっ、なんという事を! お前さんの振る舞いだから全部食べたのじゃ。まんじゅう代は、絶対にいただきます!」
「それそれ、そうやって田舎者をだますとは、やっぱり江戸は恐いところじゃ」
そう言って男は、急いで店から逃げ出しました。
これに腹を立てたまんじゅう屋の主人が男を追いかけようと外へ出ると、隣の店の主人が声をかけてきました。
「どうした? そんなにあわてて。・・・あっ! さては食い逃げか?」
するとまんじゃう屋の主人が、少し考えてから答えました。
「いや、食わず逃げじゃ」
♪ちゃんちゃん
(おしまい)
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