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 8月5日の小話 
 へ、一つでぜんめつ 
   むかしむかし、ある村に、へっぺり娘と言われて、よくへをする娘がおりました。「こんな娘は、一生、お嫁にゆけまい」
 と、親たちは心配していました。
 ところがどうした事か、村の長者(ちょうじゃ)から一人息子の嫁にほしいと言ってきたのです。
 そしていよいよ娘が長者のところへ嫁に行くという時、母親は、
 「嫁に行ったら、よくよく『へ』には気をつけるんだよ」
 と、言ってきかせました。
 お嫁さんになった娘は四、五日の間は、じっと『へ』をがまんしていましたが、そのうちにどうしてもがまんが出来なくなり、家族みんなのいる前で、
 ブーーッ!
 と、やってしまったのです。
 
 その晩、娘は恥ずかしさのあまり、池に身を投げて死んでしまいました。
 それを知ったお婿(むこ)さんは、
 「あんないい嫁を『へ』一つくらいで殺してしまうとは、なんとも申し訳ない」
 と、これもお嫁さんのあとをおって、池に飛び込んで死んでしまいました。
 これを知った長者夫婦も、
 「一人息子に死なれては、もう生きているかいもない」
 と、同じ池に二人一緒に飛び込んでしまいました。
 そして、
 「あの長者どんがいなくては、この貧しい村はとうていやっていけない」
 と、村の人たちが次々と池に身を投げたため、とうとう村はぜんめつしてしまいました。
 おしまい  
 
 
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