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9月22日の小話
なぎなたっ屁
むかし、ある村に、十(じゅう)どんという、屁(へ)こきの名人がいました。
十どんは自由自在(じゆうじざい)におもしろい屁をこいてはみんなを喜ばせて、その見せ物代をもらって暮らしをたてています。
ある日の事、
「わしも諸国(しょこく)をまわって、屁ひりの修業(しゅぎょう)をせにゃ」
と、十どんは旅に出ました。
そのうちに十どんは、関所(せきしょ→国境のようなもの)にさしかかりました。
関所では立派な役人が、高いところから一人一人の通行人を調べています。
役人が、十どんに聞きました。
「これ、そのほう。名は何ともうす」
「へえ。十どんです」
「十どんとな。して、あきない(→仕事)は何じゃ」
「へえ。屁を、あきのうております」
「なに?! 今、何と言った?」
「へえ。屁を、あきのうております」
それを聞いて、役人は十どんをにらみつけました。
(こやつ、あやしいやつじゃ)
「そのほう、屁をあきなうとのこと、いつわりではあるまいな」
「へえ」
「うそいつわりをもうすやつは、この関所を通すことまかりならぬぞ」
「うそいつわりでは、ございません。みなはあっしの事を、『屁っぴりの十どん』と、もうします」
「しからば、屁っぴりの十どんとやら。いつわりならぬしょうこに、ここで屁をやってみい」
「では、おおせの通り」
すると十どんは、
♪プリン、パラリン
♪プリン、パラリン
♪ごようの、さかずき
♪ヒッキョ、キョンのキョン
と、屁で歌を歌いました。
(これだけ上手に屁をこけば、通してくれるだろう)
そう思って、十どんが歩きはじめると、
「まてっ」
と、お役人が、手をあげて呼び止めました。
「おもしろいやつじゃ。もう一つやってみろ」
「・・・・・・」
「どうした、屁っぴり屋。もう一つやれ。・・・なにをくずくずしておる」
「へえ。もう一つやれとおっしゃいますが、あっしの屁は、あきないにございます」
「あきないだから、どうした?」
「あきないですので、ただでは出来ません」
「なにおっー!! お上にたいし、無礼(ぶれい)をもうすな。命令じゃ、ただでこけっ! こかぬとあれぱ、ここを通さぬぞ!」
「・・・それでは、なぎなたの屁をこきますが、いかがでございましょう」
「なぎなたの屁? それは聞いた事もないが、おもしろそうじゃ。こいてみよ」
「では」
十どんは、お役人のほうヘお尻をむけると、
♪プーーーーーウ
と、ながい屁をこきました。
「これが、なぎなたの持つ部分のえでございます」
「なるほど。ながいえじゃ。次は?」
♪ブッ
「なんじゃ、それは」
「地面にあたるヤリのしり金具。石突でごぜいます」
「なるほど、石突か。とんと、ついたな。では、次」
♪プル、プル、プルリン。
「これが、えにまいた藤でございます」
「なるほど、ようまいてあるようじゃ。次は」
♪プリッ、オバリッ。
「これで、さやをはらいました」
「なるほど、パッとはろうたか。みごとなものじゃ」
「ではいよいよ、なぎなたっ屁のごくい。刀身をひりますので」
十どんは、パッとお尻をまくりました。
♪プリ、プリプリプリ。
すると役人は、鼻をつまむとあわてて言いました。
「これ! 中身は、出すにおよばぬ。はよう、はよう通れっ」
♪ちゃんちゃん
(おしまい)
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