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12月17日の小話
るす
貧乏浪人(びんぼうろうにん)の家に、米屋がやって来ました。
「ごめんください」
「誰だ?」
「へい、横町の米屋でございます。たまっているおかんじょうを、いただきにまいりました」
「ああ、米屋か。今は、るすじゃ」
返事をした声は、たしかに浪人(ろうにん)の声です。
不思議に思った米屋は指につばをつけると、しょうじに穴を開けて中をのぞきました。
すると確かに浪人がいて、こたつにあたっています。
「もしもし、るすだとおっしゃいますが、だんなはそこにいるじゃありませんか」
しょうじの穴からのぞきながら米屋が言うと、浪人が怖い顔で言いました。
「ぶれい者! しょうじに穴を開けたな! ここはかりにも、おれの城だ。その城に穴を開けるとは、何事だ!」
「へへーい。これはとんだそそうをいたしました」
米屋はあわてて紙を取り出してつばをつけると、穴の開いたしょうじにペタンとはりつけました。
「はい、これで元通りに直しました」
すると中から、浪人が言います。
「それでは、もう見えぬか?」
「はい、見えませぬ」
「よし、それなら今は、るすじゃ」
♪ちゃんちゃん
(おしまい)
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