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1月9日の日本民話 2
笑い地蔵
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むかしむかし、ある村に、おばあさんと息子が二人でくらしていました。
ある晩、おばあさんは急な用事が出来たので、となり村まで行かなくてはなりません。
それでおばあさんは、息子に言いました。
「悪いたぬきがだましに来るかもしれねえから、戸閉まりをして寝るんじゃよ。わしは明日の昼には、もどって来るからな」
「うん」
息子はおばあさんを見送ると戸閉まりをして、寝ることにしました。
そのとき、
トントン、トントントン。
と、戸をたたく音がします。
「何か、ご用ですか?」
息子がたずねると、戸の向こうからおばあさんの声がします。
「わしじゃよ。開けておくれ」
(おかしいなあ。帰りは明日の昼と言っていたのに)
息子が首をかしげながらも戸を開けると、確かにおばあさんが立っていて、
「ああ、疲れた」
と、腰をたたきながら入って来ます。
それから、いろりの前に座ると、なべのふたを開けて残り物を食べ始めたのです。
(こりゃ、ますますおかしいぞ。おばあさんはちゃんと夕飯を食ったし、こんな夜ふけに物を食ったりしないはず。・・・ははーん、さては)
息子はある名案を思いつくと、おばあさんに言いました。
「おや? おばあさん、今日はいつもとちがいますねえ。いつもなら帰ると、すぐその袋に入るのに」
息子が台所にある米袋を指さすと、なべをかかえて残り物を食べていたおばあさんは、
「おおっ、そうじゃった、そうじゃった」
と、あわててなべをおいて、米袋にもぐり込みました。
(しめしめ、うまくいったぞ)
息子は笑い出したいのを、ぐっとがまんして言いました。
「おや? 変ですねえ。いつもなら、『米袋の入り口をひもでむすんどくれ』と言うのに」
すると、米袋の中からおばあさんが言いました。
「おおっ、そうじゃった、そうじゃった。ひもでむすんどくれ」
そこで息子は、おばあさんの入った米袋の入り口を、ひもでギュッギュッとむすびました。
それから今度は、
「おや? 今夜は、どうしたのかな? こいつもなら入り口をむすんだ後、『納屋に放り込んでおくれ』と言うのに」
と、言うと、米袋の中からおばあさんが、
「おおっ、そうじゃった、そうじゃった。どうか、納屋にほうり込んでおくれ」
と、答えたので、息子は米袋をかついで力一杯、納屋に放り投げました。
「いたたた。やい、なにすんだ!」
おばあさんは、米袋の中で思わずそう叫んで、
「しまった。ばれてしもうた」
と、あわてました。
そして小さな虫に化け直すと、米袋の穴から出て納屋を抜け出しました。
その様子を見ていた息子は、急いで外へ飛び出して、月あかりの道を逃げていくたぬきを追いかけました。
「やっぱりたぬきだったな! こらっ、まてー!」
しばらく走って大きなまがり角をまがると、たぬきの姿が見えなくなりました。
「逃げられたかな?」
しかし、ふと見ると、道にお地蔵さまが二つ並んでいます。
(おかしいぞ。お地蔵さまは一つだけなのに。・・・そうか)
息子はにやりと笑うと、お地蔵さまに手を合わせて言いました。
「お地蔵さま、いつもおれが手を合わせると、にっこりしてくださってありがとうございます」
そのとたん、片方のお地蔵さまがにっこり笑いました。
息子もにっこりと笑い返して、
「では、まいりましょう」
と、そのお地蔵さまをひょいとかついで家に帰り、あっという間にたぬき汁にしてしまいました。
おしまい
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