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2月7日の日本民話 2
長居のお客さん
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むかし、一人の画家が若い弟子を連れて、雪の降る北の国を旅していました。
初めて見る大雪に感心した画家が、近くの村人にたずねました。
「一体どのくらい、雪はつもっておるのですか?」
「そうですなあ。ざっと、二十メートルほどでしょうか」
「それはすごい! しかし、そんな深さを、どうやって計ったのですか?」
「ああ、その向こうに、草の様な物が突き出ているでしょう。あれは、二十メートルを超える大木のてっぺんです。あのてっぺんの出具合で、雪の深さがわかるのですよ」
言われてみると、雪野原に草の様に生えた木のてっぺんがいくつも見えます。
(なるほど。雪に家が丸ごと埋まってしまうという話は、本当だったのだな)
村人から宿屋の場所を聞いた画家は教えられた崖の上に行くと、風のせいで雪の積もりが少ない崖の下の家に向かって大声で言いました。
「すみませーん! 今晩一晩、泊めていただけますかー!」
すると崖の下の家から、返事が返ってきました。
「はーい! この雪の中ですから満足な食べ物はありませんが、それでよろしかったら、どうぞいらしてくださーい!」
崖をおりて宿屋に入った画家が、いろりの火にあたっていると、土間のすみの鳥かごに四羽ほどの鳥がいるのが見えました。
「満足な食べ物はないと言っていたが、今夜はあの鳥のなべが食べられるのだな。おいしそうだ」
そう思いながら宿屋の主人にたずねてみると、宿屋の主人は笑いながら言いました。
「残念ながら、あの鳥は食べ物ではありませんよ」
「では、飼っているのですか?」
「いえ。鳥たちは南の国で春が早く終わった年に時々時季を間違えて、こちらがまだ寒い冬なのに飛んで来てしまうのです。
ですがごらんの通りの雪では、エサがありません。
それでエサをもらおうと、鳥たちは人家の近くへやって来るのです。
鳥たちは日頃人間を恐れていますが、この時は別です。
あの鳥たちも、十日ほど前に雪嵐の中をやって来ました。
隣の家にも、その先の家にも、三、四羽の鳥がいますよ。
そしてどこの家でも助けた鳥をかごに入れて、春になるまでエサをやっているのです。
あの鳥たちは、春になるのでの長居のお客さんです。
そして春になったら、鳥かごから放してやるのです」
宿屋の主人の話を聞いて、画家は自分の早とちりを恥じました。
そして鳥かごの鳥たちに微笑みながら、
「良い話を聞いて、心が暖かくなった。ありがとう」
と、喜んだそうです。
おしまい
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