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3月30日の日本民話 2
キツネがついた幸助
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むかしむかし、東海道(とうかいどう)ぞいのある村に、幸助(こうすけ)と言う、真面目で働き者のお百姓(ひゃくしょう)が住んでいました。
この幸助が、五十五歳になったある日の事です。
どうした事か、幸助が様子が急におかしくなったので、奥さんは驚いて近所の人たちを呼んで来ました。
近所の人たちが集まると、幸助は掛け軸(かけじく)がかかった床の間(とこのま)を背にしてきちんと座り、こんな事を言い出したのです。
「我は、大友(おおとも)の白ギツネである。
この度、豊川(とよかわ)の稲荷(いなり)さまの使いとして、江戸まで行く事となった。
江戸から戻る時も、またこの家を宿(やど)に借りたい。
では、
世話(せわ)になったな」
そう言って幸助は、旅の仕度を始めたのです。
「あなた、何を言っているの?」
「これはもしかすると、キツネがとりついたか?」
奥さんと近所の人たちは幸助をあわてて引き止めると、幸助をふとんに寝かせました。
そしてみんなが心配していると、幸助は正気に戻ったのか、きょとんとした顔でふとんから起きあがり、
「おや? みんなここで、何をしておるんだ?」
と、言うのです。
奥さんや近所の人たちが今までの事を説明しましたが、幸助はそれまでの事を全く覚えていませんでした。
さて、それから何日かすると、幸助がまたおかしな事を言いました。
「我は、先に宿を借りた大友の白ギツネである。
たった今、江戸から戻って来た。
我は今年で、五百歳になる。
ここは富士の山も近くにながめられて、とてもよいところじゃ。
気に入ったので、ここに住もうと思う。
だから社(やしろ)をつくって、我をまつれ」
やがて正気に戻った幸助にこの話をすると、幸助はまじめな顔つきで言いました。
「これも、何かの縁(えん)だ。白ギツネの頼みをきいてやろう」
そして幸助は家の敷地(しきち)に小さなお稲荷(いなり)さんの社をつくり、自分はそこの神主(かんぬし)になりました。
神主になった幸助は病気や大漁(たいりょう)のお祈りを頼まれる、どこへでも出かけて行って一心(いっしん)にお祈りをしました。
するとどんな願いでも、すぐにかなえられたそうです。
また幸助は、これまで一度も絵を描いた事がありませんでしたが、神主になってから突然、それは見事な絵を描く様になりました。
特に富士山の絵が素晴らしく、神主になってから四年後、『富士景色』と呼ばれる立派な画集(がしゅう)を二冊を残して、幸助はこの世を去ったのです。
おしまい
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