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5月1日の日本民話 2

徳利(とっくり)の又吉(またきち)

徳利(とっくり)の又吉(またきち)
新潟県の民話新潟県情報

 むかしむかし、佐渡金山(さどきんざん)の無宿者(むしゃくもの→戸籍のない人)の一人に、又吉(またきち)という男がいました。
 又吉は奇術が得意で、色々な奇術をみんなに見せては人々を驚かせていました。

 ある日の事、又吉はみんなが見ている前で、自分の首をするすると伸ばしてみせました。
 首は上の方から下を見おろして、にたっと笑うと、またするすると縮んで元通りの又吉になったのです。
「ろくろっ首だ!」
「お前は、お化けなのか?」
 驚くみんなに又吉は、
「いいや。おらは、化け物なんかじゃねえ。これにはちゃんと、仕掛けがあるんだ」
と、首が伸びる種明しをしてみせましたが、みんなにはちんぷんかんぷんです。

 又吉はほかにも、徳利の中へ身を隠す奇術が得意でした。
 部屋の真ん中に、一本の徳利をおいて、
「いいか。おれがこの小さな徳利の中に隠れてみせるから、よーく見ておれよ」
と、言ったとたんに、又吉の姿が消えてしまいました。
「消えたぞ。おい、本当に徳利の中に入ったかどうか見てみろよ」
 みんなが徳利の中をのぞきこむと、たしかに徳利の中には何かが入っていました。
「おーい、又吉よー」
と、呼ぶと、かすかに、
「おーい、ここにいるぞー」
と、呼んでいる声が、徳利の中から聞こえてきます。
「まったく、不思議な事だ」
「いったい、どうやって入ったんだ?」
 仲間が頭をかしげていると、
「おーい、今から出るぞ」
と、徳利の中から聞こえたかと思うと、いつの間にか又吉がみんなの前に立っているのです。
 この奇術があまりにも見事なので、それから又吉は、『徳利の又吉』と呼ばれました。

 ある時、仲間の一人が又吉に聞きました。
「お前、その芸当があれば、この金山から逃げ出せるだろうに、どうして逃げねえんだ?」
 すると、又吉は
「そりゃあ、金山から逃げるなんざ、わけはねえよ。だども、おらのように帰る国のねえもんは、どこさ行けばいいんだ。・・・おらは死ぬまで、こうしてこの金山で働くしかねえんだ」
と、さびしそうに笑ったそうです。

おしまい

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