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12月29日の日本民話 2
元旦長者
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むかしむかし、あるところに、とても貧乏なおじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある大晦日(おおみそか)の事、おじいさんがおばあさんにたずねました。
「ばあさんや、わしらはこの一年間、汗水たらしながら頑張って働いてきた。それで、お金はどのくらい貯まったんだ?」
するとおばあさんは、床下に隠してあった、お金の入っているつぼを取り出して中身を数え始めました。
「おじいさん。三百文ばかりありますよ」
「そうか。あまり贅沢は出来んが、それで正月の用意を買うとするか」
おじいさんはお金を受け取ると、町まで続く雪道を歩いて行きました。
その町までの途中に地蔵堂があったのですが、雪の重みでお堂が壊れてしまって、中のお地蔵さまたちが雪に埋まっていました。
「ああっ、これはもったいないことだ」
おじいさんはすぐにかけよると、雪の中からお地蔵さまたちを掘り出しました。
しかし雪はどんどん降ってくるので、このままではすぐにお地蔵さまたちはまた雪に埋もれてしまいます。
「困ったな。わしの力では、壊れたお堂を直す事は出来んし・・・。おおっ、そうじゃ」
おじいさんは急いで町に行くと、有り金全てを使って赤いずきんをいくつも買いました。
そして再びお地蔵さまたちのところへ戻ってくると、買ってきた赤いずきんをお地蔵さまたちの頭にかぶせてやったのです。
「地蔵さま。せめて、これでがまんしてください」
でも、お地蔵さまの数が多くて、ずきんが一つ足りません。
そこでおじいさんは自分がかぶっていた笠と蓑を脱ぐと、最後のお地蔵さまに着せてやりました。
「ああ、これでいい」
おじいさんはにっこり微笑むと、手ぶらのまま家に帰ったのでした。
「あら、おじいさん。どうしました、雪まみれで」
おじいさんはおばあさんに、今日の出来事を話してやりました。
「そういうわけで、正月の用意を何も買ってこんかった。ばあさん、すまなかったな」
するとおばあさんは、にっこりと笑って言いました。
「それは良い事をしましたね。なあに、お正月の間、何も食べなくても死にはしませんよ」
その夜、二人は空腹のまま眠ることにしました。
さて、真夜中になると、どこからか『ごろごろ』と大木をひく様な音がしました。
その音に、おじいさんとおばあさんが目を覚ましました。
「ばあさん、あの音は何じゃろう? 正月早々、長者の家の若者たちが木をひいているのかな?」
「そうですね」
二人が話し合っていると、その音がだんだんこっちに近づいてきました。
やがて家の外から、誰かが声をかけました。
「じいさま。じいさま。赤いずきんと笠と蓑の礼を持って来たぞ。ここに置いておくから、朝になったら割ってみろ」
声はそう言うと、どこかへ消えていきました。
おじいさんとおばあさんが外に出てみると、家の前には一抱えもありそうな大木が置いてあり、遠くにはおじいさんがかぶせた赤いずきんと笠と蓑を着たお地蔵さまたちが雪道を帰って行く後ろ姿が見えました。
翌朝、おじいさんはおばあさんは、お地蔵さまに言われたように家の前に置かれた大木をオノで割ってみました。
すると大木の中は空洞で、中から大判小判がざくざくと出てきたのです。
「ああ、ありがたい。地蔵さま、ありがとうございます」
こうしておじいさんとおばあさんはそのお金でお金持ちになり、人々から元旦長者と呼ばれて幸せに暮らしたのでした。
おしまい
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