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4月27日の世界の昔話
クマ退治の勇者
タイの昔話 → タイの国情報
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読
むかしむかし、ある森の近くに、おくびょうなお百姓(ひゃくしょう)が住んでいました。
ある日、お百姓とおかみさんが、いつもの様に畑を耕していると、森の奥でガサゴソと音がしました。
「はて、何だろう?」
お百姓は、音のする方を見てビックリ。
なんと大きなクマが、のっそりのっそりと出て来たのです。
「た、助けてくれえ!」
弱虫のお百姓は、その場におかみさんを置きっぱなしにして、あわてて逃げ出しました。
おかみさんも声が出ないほどビックリしましたが、でも、おかみさんはお百姓ほど弱虫ではありません。
「ようし!」
おかみさんは、お百姓が置いていったオノを振り上げると、クマに向かって行きました。
そしておかみさんは、たった一人でクマと闘い、とうとうクマをやっつけたのです。
おかみさんが倒したクマを引きずって家まで帰ると、弱虫のお百姓はビックリして言いました。
「わあ。女房のお化けだ! 自分だけ逃げて悪かった! 謝るから助けてくれー!」
お百姓は家の戸をしっかり閉めて、おかみさんを中へ入れようとしません。
おかみさんがクマに殺されて、化けて来たと思っているのです。
「しっかりしなさいよ。わたしですよ。お化けじゃありませんよ」
おかみさんが何度も言ったので、やっと弱虫のお百姓はおかみさんと死んだクマを家の中へ入れてやりました。
「感心、感心。よくお前一人で殺せたものだ。だが、もし人に聞かれたら、このクマはわしが殺したと言うんだぞ」
と、お百姓が言いました。
「あら、どうしてですか?」
「よく考えてみろ。男でさえも殺せないクマを、何で女のお前が殺せると思う。みんなお前がうそをついていると思うぞ。だからクマ退治をしたのは、わしだという事にしておけ」
お百姓はおかみさんにそう言うと、さっそくお城へ行って、
「クマを殺しました」
と、殿さまに言いました。
殿さまが調べてみると、確かにクマが殺されています。
「なるほど。お前はクマ退治の勇士(ゆうし)だ。家来にしてやろう」
殿さまはお百姓を家来にして、たくさんのごほうびをあげました。
クマ退治のお百姓は、どこへ行っても評判です。
「えっへん! おっほん!」
お百姓は毎日、大いばりで歩き回りました。
ところがある日、困った事が起こりました。
お城の井戸(いど)の中にコブラという毒(どく)ヘビがいるので、それを退治する様にと殿さまに命令されたのです。
「わあ、困ったな。どうしよう?」
お百姓は恐ろしくて、ブルブルと震え出しました。
何しろ、コブラの毒はとても強くて、かまれたらすぐに死んでしまうのです。
でも、いつもいばっているので、コブラ退治は出来ないとは言えません。
お百姓は仕方なしに、長いロープを井戸の中にたらして井戸の中へと降りて行きました。
でも、井戸の中は薄暗くて、どこにコブラがいるのかわかりません。
「ああ、怖い、怖い。やっぱり、コブラは退治出来ませんと謝ろう」
弱虫のお百姓は早く逃げ出そうと、ロープを夢中で引っ張りました。
しかしロープだと思ってにぎったのは、ロープではなくコブラだったのです。
「ひゃあ。コ、コ、コブラだあ!」
お百姓はコブラをギュッとにぎったまま、手をブンブンと振り回しました。
するとお百姓がつかんだのは、ちょうどコブラの首だったので、コブラは息が出来なくて死んでしまったのです。
「・・・おや? おおっ! ばんざーい! コブラをやっつけたぞ。ロープを引き上げろ。早く引き上げろ!」
お百姓は、大声で叫びました。
弱虫のお百姓は毒ヘビのコブラを殺したので、また殿さまにほめられました。
「お前ほどいさましくて強い者はいない。お前がいてくれたら、隣の国の兵隊が何百人攻めて来たって平気じゃ」
「さようでございますとも。敵兵の二千や三千、ただのひとひねりでございますわい。ワハハハハハ」
お百姓が得意になって殿さまと話していると、家来たちがあわててやって来ました。
「大変でございます。隣の国の兵隊が、この町の近くまで攻めて来ました!」
「なに、それは本当か。よし、クマとコブラを退治した勇士よ。お前が行って、敵兵どもをひねりつぶしてこい!」
「え? あの、わたし一人でですか?」
「そうだ、さっき敵兵の二千や三千、ただのひとひねりと言ったであろう。期待しておるぞ!」
「・・・・・・」
お百姓は、まっ青になりました。
でも殿さまの言いつけなので、仕方なしに出かけました。
「たった一人だなんて、どうしたらいいのだろう。・・・そうだ。まずは敵の様子をさぐってこよう」
お百姓は夜になると、コッソリと敵軍のそばまで忍んで行きました。.
見ると敵兵が大勢いるそばに、大きな木がありました。
お百姓は敵兵に見つからない様に、その木の上に登りました。
そしてそっと耳をすましていると、敵兵たちはこんな事を話しています。
「この国の兵隊で怖いのは、あのクマとコブラを退治した男だけだ。あいつさえやっつけてしまえば、こっちの勝ちだ」
「よし、まずはあのクマ退治の勇士をやっつけよう」
弱虫のお百姓は聞きながら、怖くて怖くてガタガタと震え出しました。
ところが、あんまり震えているので、つかまっていた枝が折れてしまいました。
ドシーン!
お百姓は真っ逆さまに、敵兵のいる真ん中へ転がり落ちてしまいました。
「敵だ! 敵が一人で攻めて来たぞ!」
こうなれば、やけくそです。
お百姓はすぐに立ちあがると、持っていた刀を振り上げ、
「こらあ! 者どもよく聞け! わしがクマとコブラを退治した勇士だぞ! わしは空から飛び降りる事も出来るし、舞い上がる事も出来る。さあどうだ。わしと闘う者は、出て来い!」
と、大声で叫びました。
敵兵たちは、ビックリ。
空から突然、評判のクマ退治の勇士が飛び降りて来たので、もう怖くてなりません。
「それっ。逃げろ、逃げろ!」
と、あわてて逃げ出しました。
こうしてクマとコブラを退治したお百姓は、大勢の敵兵を一人で追い返したので、殿さまからたいそうほめられました。
そして国中の人から、強い勇士とほめられたのです。
おしまい
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