むかしむかし、泥棒(どろぼう)が、ある家の天井裏に忍び込みました。 下を見ると、お父さんとお母さんと赤ん坊が眠っています。 昼間の仕事の疲れからか、お父さんとお母さんは起きる気配がありません。 「しめしめ、よく眠っているぞ」 泥棒が安心して下へ降りようとすると、まん中に寝ていた赤ん坊が、ぱっちりと目を開けました。 泥棒は、あわてて天井裏へ戻りました。 すると赤ん坊が、今にも泣き出しそうな顔でこっちを見ています。 「弱ったぞ。こんなところで泣かれては大変だ」 そこで泥棒は、ペロリと舌を出しました。 そのとたん、赤ん坊はにっこり笑いました。 「よしよし、いい子だ」 次に泥棒は口をとがらせて、ひょっとこのお面みたいな顔をしました。 それを見て、赤ん坊はまた笑いました。 「あははは。何て可愛い赤ん坊だ」 泥棒はこの赤ん坊がすっかり気に入って、手を動かしたり、おもしろい顔をして見せたりと、仕事も忘れて赤ん坊をあやしていました。 そのうちに一番どりが鳴き出しました。 気がつくと、外はだいぶん明るくなっています。 「しまった。夜が明けてしまった」 泥棒は赤ん坊に手を振ると、何にも取らずに逃げて行きました。 おしまい |
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