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11月1日の世界の昔話
ほら吹き男爵 地底の冒険
ビュルガーの童話 → ビュルガーの童話について
わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。
わがはいは、地球上のあらゆる土地をかけめぐったうえに、月世界の探検にも成功した。
もうこれ以上の冒険はないはずなのに、なぜかはわからないが物足りなさを感じていた。
そんなある日、わがはいはイギリスのブライトという冒険家の『シチリア島探検記』という本を読んで、
「ははーん、これだな」
と、やっと物足りなさの原因を知る事が出来た。
宇宙と地上の探検のほかに、まだ地底の探検が残されていたのだ。
「そうだ、地底の探検をやらなければ、わがはいの冒険も完全とはいえない」
そう思うと、わがはいはいてもたってもいられず、さっそく旅の支度をととのえて、シチリア島にある有名な活火山エトナへ向けて出発した。
およそ三時間も険しい山道を歩き続けて、わがはいはやっと山のてっぺんに着いた。
もっとも、こんなに時間がかかったのは、どこかに地底へ通ずる穴でもないかと、きょろきょろ見回していたせいだが。
もちろんそう簡単に、地底へ通ずる穴は見つからなかった。
「こうなったら、火口から飛び込むより仕方がない」
わがはいは決心したが、いざ火口をのぞいてみて身の毛がよだった。
火口の中は、まっ赤な火が燃えさかって、吹き上げてくる熱風だけでも、わがはいの顔は黒こげになりそうだ。
でも、ここまで来て引き返す事は、わがはいの名誉がゆるさない。
「えーい、いちかばちかだ。どうせ、人間はいつかは死ぬのだ」
わがはいは、覚悟をきめると、
「えいっ!」
と、火口の中へ飛び込んだ。
落ちていく間にも、すさまじい炎のために、わがはいの服がぶすぶすこげていくのがわかった。
そして、ついにわがはいは、火口の底に着いた。
服を見てみると、思っていたほどたいした事はなかった。
おそらく、ものすごいスピードで落ちた為に、火が燃え移るひまがなかったのだろう。
でも、むき出しの顔はそれなりにやけどをしていたが。
「まあ、とにかく助かった」
ほっとしたとたん、わがはいの耳に入ってきたのは、ものすごいけんかの声だった。
「やい、しっかりしろ! このまぬけめ! 何年、かじ屋をやってるんだ!」
「何を言っていやがる! 自分の教え方が悪いのを、たなにあげて」
「こら! わしに、口答えをするのか! また、炭火をぶつけるぞ!」
「へん、やってみろ! いくらぶつけたって、よけてやるよ」
わがはいが声の方向に行って見ると、どこかで見た事のある一つ目の大男が、二人でののしりあっていた。
「うーん、誰だったかな?」
わがはいは頭をひねって、やっと二人の正体がわかった。
いつかむかし話で読んだ事のある、火とかじ屋の神ブルカーンと、家来のキクロープスだった。
「きみたち、けんかなんかやめたまえ」
わがはいが言うと、
「これは、恥ずかしいところを見られたな」
と、二人は、すなおにけんかをやめた。
そしてブルカーンは親切にも油薬を塗って、わがはいの顔のやけどの手当てをしてくれたばかりか、お酒まで出してもてなしてくれたのだ。
お酒を飲んで、ひといきついたわがはいが、
「どうしてエトナ山は、こうも荒れるのですか?」
と、聞くと、
「いや、それというのも、このキクロープスのせいなんだ」
と、ブルカーンは、弟子をにらんだ。
「こいつが、あまりにも仕事が下手くそなので、わしは罰をあたえるために、まっ赤な炭火をぶつけるんだ。
しかしこいつは、よけ方がうまくなってね。
そのはずれた炭火が、地上へ飛んで爆発するわけなんだ」
「なるほど。では、ベスビオ山の噴火は?」
「あれも、実は我々の責任でね。あの時はポンペイの町で何万人もの人が死んだそうで、本当にすまないと思っているんだ」
「じゃ、けんかをしなけりゃいいじゃないですか」
「そうはいかん。この弟子が、まともな仕事が出来るようになるまではね」
「ちぇっ、自分だって、ろくな仕事も出来ないくせに」
「なにおっ!」
また、けんかを始めた。
「や、やめてくれ」
わがはいは、大あわてでけんかを止めた。
またどこかの山が爆発して、死人でも出たら一大事だ。
しかしわがはいは、けんか好きでも正直な二人が気に入ったので、ここにとどまってもっと地底の研究を続けたかったが、口うるさいブルカーンの奥さんがわがはいの事を、
「地底の様子をさぐりにきた、スパイだ!」
と、告げ口したために、お人よしのプルカーンは、かんかんに怒って、
「この恩知らずめ! もとの世界へ帰っていけ!」
と、わがはいを、底なしの深井戸へ投げ込んだのだ。
わがはいの体は深く深くどこまでも吸い込まれ行き、いつの間にか気を失ってしまった。
やがて我にかえると、わがはいはまぶしい太陽の輝く海の上に浮かんでいた。
「やれやれ、助かったぞ」
わがはいが喜んだのもつかの間、ここは海のまん中で、どこを見回しても陸地らしい物が見えない。
やがて氷山が流れてきたので、それによじ登ると、幸運な事に、はるかかなたから、一そうの船が走ってくるではないか。
「おーい、助けてくれえー!」
わがはいは、むちゅうで叫んだ。
「わかったー! いま行くから、待っていろー!」
向こうも答えて、船はぐんぐんとスピードをあげた。
その船は、オランダ船だった。
わがはいは熱いコーヒーをごちそうになって、やっと人ごこちを取り戻すと、
「ここは、どこですか?」
と、たずねた。
すると船長は、
「きみは、遭難した海も知らんのかね?」
と、不思議そうな顔をしながら、
「ここは、南太平洋のまん中ですよ」
と、教えてくれた。
「えっ? 南太平洋だって!?」
わがはいは船長たちに今までの冒険のいきさつを話したが、誰も信用してくれない。
そればかりか、
「どこかの国に、大変なほらふきの冒険家がいるそうだが、きみにはかなうまいな」
と、腹をかかえて大笑いしたのである。
その冒険家の名前は聞かなかったが、そんな冒険家の面汚しは、今度会ったらただではおかないつもりだ。
ともかく、これでわがはいの地底の冒険は終わったのだ。
今日の教訓は、『火山に飛び込む時は、やけどの薬を持って行こう』だ。
地底に、油薬を持ったブルカーンがいるとは限らないからな。
では、また次の機会に、別の話をしてやろうな。
おしまい
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