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3月5日の日本民話
観音さまと殿さま
静岡県の民話
むかしむかし、浜名湖(はまなこ)の近くの海で、不思議な事がおこりました。
それは夜になると、まっ暗な沖の海の中で、何かが明るく光るのです。
「あれは、なんじゃろうな?」
「気味がわるいのう。何かよくない事でもおこるのかのう?」
漁師たちは毎晩浜辺へでて、心配そうに沖をみつめていました。
何度も船をだして調べてみましたが、どうして光るのかわかりません。
ためしに、大きなアミを海の底までおろしてみましたが、アミにかかってくるものは何もありませんでした。
それでもあきらめずに、沖でアミをひいていると、三日目にアミがズッシリと重くなりました。
力をあわせてアミをひきあげると、なんと木ぼりの古い観音(かんのん)さまがあがってきたのです。
不思議な光を放っていたのは、この観音さまだったのです。
村の人たちはお寺の和尚(おしょう)さんと相談をして、見はらしのいい、近くの汐見坂(しおみざか)にお堂をつくってまつりました。
さて、ある年の春です。
江戸(えど)から東海道(とうかいどう)を下って広島に帰る殿さまが、汐見坂の近くに宿をとりました。
すると夢の中に、観音さまが現れて、
「いますぐ、この地をはなれよ。大きな災(わざわ)いがせまっている」
と、いうのでした。
おどろいて目をさました殿さまは、すぐに旅のしたくを命じました。
「殿、この夜中に出発とは、どうなさいました?」
お供の者たちがビックリしてたずねると、殿さまは夢の話をして、
「いそげ! 何をしておる!」
「しかし、たかが夢の事で、こんな夜中に」
「信じない者は残るがよい!」
そういうと、わずかなお供をつれて旅立ちました。
そしてそれから何時間もしないうちに、はるか沖合いから、大津波(おおつなみ)がおしよせてきたのです。
殿さまの一行から話をきいた村の人たちも、たくさん逃げだしましたが、殿さまにしたがわなかった多くの人たちは、大津波にのみこまれてしまったのです。
この事があってから、汐見坂の観音さまは、多くの人たちからあがめられるようになりました。
夢のお告げで命をすくわれた広島の殿さまは、感謝のしるしとして観音さまに、狛犬(こまいぬ)と灯籠(とうろう)をおくりましたが、それを届ける者たちが何をまちがえたのか、ほかのお寺へ持っていってしまいました。
広島の殿さまがおくった狛犬と灯籠は、今もまちがえたお寺にあるという事です。
おしまい