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6月2日の日本民話
テングに手を貸した和尚
栃木県の民話
むかしむかし、盛高寺(せいこうじ)という寺に、とても字の上手な和尚(おしょう)さんがいました。
ある時、この寺にテングがやってきて、
「すまぬが、しばらく和尚の手を貸していただきたい」
と、いったのです。
和尚さんは、ビックリして、
「テングどのに手を引きぬかれては、何も出来なくなってしまう。そればかりはかんべんしていただきたい」
と、ことわりました。
するとテングは、大笑いし、
「いやいや。なにも手を引きぬいて持っていこうというのではない。和尚の字を書く力を貸してほしいだけだ。一言(ひとこと)、『貸す』といってくれればいい」
と、いいました。
それを聞いてホッとした和尚さんは、
「それなら安心。よし、手を貸そう」
「うむ。では拝借(はいしゃく)する」
テングはていねいに頭をさげると、そのまま寺を出ていきました。
ところがテングの帰ったあと、和尚さんの手は思うように動かなくなってしまいました。
《これでは、手を引きぬかれたのと同じだ》
和尚さんはガッカリして、テングに手を貸したことを後悔(こうかい)しました。
そこで、近所の人たちには、
「手の骨を痛めたので、とうぶん字は書けない」
と、いって、テングが来るのを待っていました。
それからひと月ほどして、ようやくテングがやって来たのです。
「不自由をかけてすまなかった。この前借りた手を返しにきた」
「それはそれは」
和尚さんが思わず手をあげたら、手は思い通りに動くようになっていました。
「やれやれ、助かった」
和尚さんがためしに字を書いてみると、前よりもすばらしい字が書けました。
和尚さんは、すっかり喜んで、
「テングどのに手を貸したおかげで、書の腕が一段とあがったようだ」
と、お礼を言いました。
「いやいや、和尚の手は評判(ひょうばん)どおりたいしたものだった。その見事な筆には、仲間たちもおどろいていたぞ。お礼のしるしに火よけの銅印(どういん→銅製の印かん)を一つ置いていく」
テングは和尚さんに銅印を渡すと、いつのまにか姿を消していました。
それからというもの、和尚さんに書いてもらった字を家に張っておくと、その家では火事がおきないというので、和尚さんの書いた掛け軸は名僧(めいそう)の書として評判になりました。
おしまい