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8月5日の日本民話

スズメになった若者

スズメになった若者
和歌山県の民話

 むかしむかし、あるところに、びんぼうですが正直者のおじいさんとおばあさんが住んでいました。
 ある日、おじいさんがいつものように山へたきぎをとりに行くと、どこからともなく、おいしそうなお酒のにおいがながれてきました。
(はて、不思議な事もあるものだ)
 おじいさんがにおいのするほうへ歩いていくと、竹やぶの前に出ました。
 すると、どうでしょう。
 竹やぶの中には竹でできた酒だるがあって、スズメたちがそのまわりで、チュンチュンと楽しそうにおどっているのです。
(これはこれは、なんてかわいいスズメたちだ)
 おじいさんがニコニコして見ていたら、一羽のスズメがとんできて、
「さあ、おじいさんもお酒を飲んでください。このお酒を飲むと、きっとしあわせになりますよ。チュン、チュン」
と、いうのです。
 おじいさんはスズメたちのところに行って、そのお酒をごちそうになりました。
「うん、これはうまい」
 こんなおいしいお酒は、今まで飲んだ事がありません。
 それに一口飲んだだけで、心がウキウキし、体が元気になってくるのです。
 すっかりご機嫌になったおじいさんは、スズメたちと一緒になっておどりはじめました。
♪酒がうまいぞ、いい気持ち。
♪チュン、チュン、チュン
♪はあ、こりゃこりゃ
♪チュン、チュン、チュン
 おじいさんのかけ声にあわせて、スズメたちもおどります。
 もう楽しくて楽しくて、おじいさんは時間のたつのもわすれてしまうほどでした。
 やがて夕方になって、ようやくおどりが終わりました。
「いやあ、楽しかった。ありがとう」
 おじいさんはスズメたちにお礼を言って、帰っていきました。
 さて、おじいさんの家のとなりに、なまけ者の若者が住んでいました。
 おじいさんの話を聞くと、若者もそのお酒が飲みたくなって、つぎの日、さっそく山へ出かけていきました。
 お酒のにおいのするほうへと歩いていくと、おじいさんの言ったとおり竹やぶがあって、スズメたちがお酒を飲みながらおどっています。
 若者は、竹やぶに入っていくなり、
「おい、おれにもその酒を飲ませてくれ」
と、言いました。
 するとスズメたちは、首をふって言いました。
「このお酒を飲むと、とんでもない事になるから、やめたほうがいい。チュン、チュン」
「うるさい。はやくよこせ!」
 若者はいきなり酒だるをつかむと、一息にお酒を飲んでしまいました。
 すると、どうでしょう。
 若者の体はみるみる小さくなっていき、口は口ばしに、手は羽に変わって、とうとうスズメになってしまったのです。
 スズメになった若者は竹やぶを追われて、チュンチュンと鳴きながら、どこへともなく飛んでいきました。
 そしておじいさんの家では、スズメたちが言ったように、いい事がつづいて、やがて村一番のお金持ちになったという事です。

おしまい

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