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8月29日の日本民話

死神の魂袋と扇

死神の魂袋と扇
鹿児島県の民話

 むかしむかし、あるところに、病気で寝込んでいる娘がいました。
 娘の病気は日に日に重くなって、もう、今日明日には死ぬだろうという状態です。
 娘の枕元には親類や近所の人が集まって、娘の最後を見守(みまも)っていました。
 真夜中になって、一人の若者がかけつけて来ました。
 すると娘の家の回りを、黒い服を着て大きなカマを持った奇妙(きみょう)な男が、ウロウロしているではありませんか。
「気味の悪いやつだな」
 若者がそれとなくその男の様子をうかがっていると、その男は時々、家の壁のすき間から家の中をのぞいているのです。
 若者は思い切って、男に声をかけました。
「あの、あんたは誰です? この家に、何か用でも?」
「わしか? わしは死神だ。わしは一番どりが歌うまでに、ここの娘の魂(たましい)を取らねばならんので様子をうかがっておるんじゃ。じゃが、人の出入りが多くてわしが入り込むすきがない。すまんがお前、わしの手伝いをしてくれんか?」
 若者は死神と聞いてビックリしましたが、とっさに名案がうかびました。
「ああ、いいよ。それで、何をしたらいい?」
「そうか、手伝ってくれるか。それならお前は、外で見張りをしておくれ、人が来たら知らせておくれ」
 死神はこういうと、スーッと家の中に入りました。
 そのとたん、家の中にいた人々が、突然居眠りを始めたのです。
 若者は、壁のすき間から死神が何をするのかをのぞいていました。
 死神は娘の枕元に座ると、ふところから皮袋と扇(おおぎ)を取り出して、まず皮袋の口を開き、そして娘の片方の耳元で扇をゆっくりひとあおぎし、もう一方の耳元でまたひとあおぎし、次に口元でひとあおぎしました。
 娘があくびを一つしたとき、死神は皮袋の口をキュッと閉めます。
 すると娘は、コロッと死んだのです。
「やれ、終った」
 死神はニヤリと笑って、外へ出て来ると若者に言いました。
「ご苦労じゃった。手伝ってくれた礼に、お前の魂をもらいに来るときは、出来るだけゆっくり来てやるからの」
 そして、墓場の方へと歩いて行きます。
 その歩き方がとてもしんどそうだったので、若者がたずねました。
「死神よ、どうした?」
「どうやら、さっきの人の出入りで気をつかい過ぎて、くたびれたようじゃ。それに、この魂の入っとる袋が重くて」
「なら、その袋はおらがかついでやる」
「そうか、悪いな」
 死神は皮袋と扇を、若者に渡しました。
 若者は皮袋と扇を持って死神の後ろを歩き、墓場の入口に差しかかった時、
(よし今だ!)
と、扇で脇腹をバサバサとたたいて、
「コケコッコ―!」
と、一番どりのなき真似をしたのです。
 それを聞いて、死神は大あわて、
「しまった。もうそんな時間か!」
と、言って、そのまま姿を消してしまいました。
 若者が娘の家に帰ってみると、家では娘が死んだことで、みんな泣いています。
「泣かなくてもええぞ。おらが娘を生きかえらせてやる」
 そう言うて娘の枕元に近寄ると、皮袋の口を開けて、片方の耳元で扇をゆっくりとあおぎし、もう一方の耳元でひとあおぎ、次に口元でもひとあおぎしました。
 すると死んだはずの娘があくび一つして、生きかえったのです。
 その後、若者は娘のむことなって、二人仲良くくらしたという事です。

おしまい

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